## シュミットの憲法理論に匹敵する本
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ハンス・ケルゼン『純粋法学』
カール・シュミットの『憲法理論』と双璧をなす、憲法学の古典として挙げられるのが、ハンス・ケルゼンの主著『純粋法学』です。この著作は、法実証主義の立場から、法をあらゆるイデオロギーや道
徳、政治から切り離し、「規範」として純粋に捉えようとするものです。
ケルゼンは、法を「強制秩序」と捉え、それが成立するためには、規範の体系的な整合性が不可欠であると考えました。彼は、この整合性を保証するのが「Grundnorm(基本規範)」であると論じます。基本規範は、他のすべての規範の根拠となる、いわば「法の根源」であり、具体的な内容を持たず、ただ「有効な憲法に従え」という形式的な命令として存在します。
ケルゼンの純粋法学は、法の客観性と自律性を強調し、ナチスのような全体主義国家の出現を防ぐための理論的な武器となりえると考えられました。しかし、現実の政治を無視した形式主義であるという批判も根強く、特にシュミットからは、法の政治的な側面を軽視していると厳しく批判されました。
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ジョン・ロールズ『正義論』
政治哲学の分野において、シュミットの『憲法理論』と並ぶ影響力を持つのが、ジョン・ロールズの主著『正義論』です。この著作は、第二次世界大戦後の自由主義思想を代表するものであり、正義の原理に基づいた社会契約論を展開しています。
ロールズは、「無知のヴェール」と呼ばれる思考実験を用いて、人々が自己の立場や能力などの具体的な情報を持たない「原初状態」において、どのような正義の原理を選択するかを考察しました。その結果、人々は、
1. すべての人に平等の基本的自由を保障すること
2. 社会的不平等は、最も不遇な人々に最大の利益をもたらすように設計されるべきであること(格差原理)
という二つの正義の原理を選択すると主張しました。
ロールズの正義論は、現代の立憲民主主義の基礎となる理念を提供するものとして高く評価されています。特に、格差原理は、福祉国家や再分配政策の正当化根拠として大きな影響を与えました。しかし、その抽象的な議論や、共同体主義からの批判など、様々な議論も巻き起こしています。
これらの著作は、いずれも現代社会における憲法や政治のあり方を問うものであり、シュミットの『憲法理論』と同様に、今日まで多くの議論を呼び起こし続けています。