シュティルナーの唯一者とその所有の話法
シュティルナーにおける「話法」の位置づけ
シュティルナーの主著『唯一者とその所有』は、その難解な表現で知られています。これは、シュティルナーが既存の哲学用語や概念を、独自の文脈と意味合いで使用しているためです。彼は、読者を既成の思考様式から解放し、「唯一者」としての自己認識を促すために、意識的に挑発的な表現を用いています。そのため、彼の「話法」そのものが、読者を「所有」という概念から解放し、「唯一者」へと導くための重要な手段となっています。
「所有」の概念の転倒
シュティルナーは、従来の「所有」の概念を批判的に捉え直します。彼は、物質的な所有だけでなく、思想や観念、さらには自我や理性といったものも、人間を規定し、束縛する「所有物」とみなします。つまり、私たちは自分が所有していると思っているものによって、逆に「所有」されていると主張するのです。
「唯一者」の概念と「所有」からの解放
「唯一者」とは、あらゆる「所有」から解放された、絶対的に自由な個人のことを指します。シュティルナーは、「唯一者」は既存のいかなる概念によっても規定されず、それ自体として唯一無二の存在であるとします。 重要なのは、「唯一者」は理性や道徳といった超越的な価値観によって規定されるのではなく、自身の欲求や衝動に基づいて行動する点にあります。
「自我主義」の肯定
シュティルナーは、「唯一者」に至る道として、「自我主義」を肯定します。ただし、ここでいう「自我主義」は、単なる利己主義とは異なります。それは、あらゆる「所有」から解放され、自己の欲求に忠実に生きることを意味します。
「唯一者」の所有
シュティルナーは、「唯一者」は「所有」を否定する一方で、自己の「力」によって世界を「所有」できると主張します。ただし、この「所有」は、従来の意味での支配や独占ではありません。それは、「唯一者」が自己の欲求に基づいて、世界と自由に関係することを意味します。