# シェイクスピアのヘンリー五世を深く理解するための背景知識

百年戦争

百年戦争は、イングランド王国とフランス王国の間で、1337年から1453年にかけて断続的に行われた戦争です。この戦争は、フランス王位継承権問題、フランドル地方の支配権などをめぐって争われました。ヘンリー五世が即位した1413年には、百年戦争はすでに70年以上続いており、イングランドはフランスに対して攻勢に出ていました。

百年戦争は、イングランドとフランスの両国に大きな影響を与えました。イングランドでは、戦争によって国民意識が高まり、国家が形成されていきました。一方、フランスでは、戦争によって国土が荒廃し、国民は苦しめられました。ヘンリー五世は、百年戦争におけるイングランドの英雄として知られており、彼のフランス遠征は、イングランドの勝利に大きく貢献しました。

アジャンクールの戦い

アジャンクールの戦いは、1415年10月25日に、フランス北部のアジャンクールで行われた、百年戦争におけるイングランドとフランスの戦いの一つです。この戦いは、ヘンリー五世率いるイングランド軍が、数で勝るフランス軍を破ったことで有名です。

イングランド軍は、長弓兵を主力としており、フランス軍の重装騎兵隊に対して優位に戦いを進めました。また、戦場となった場所は、ぬかるんだ湿地帯であったため、フランス軍の重装騎兵隊は動きが鈍く、イングランド軍の長弓兵の攻撃にさらされました。

アジャンクールの戦いは、イングランドの百年戦争における重要な勝利の一つであり、ヘンリー五世の名声を高めました。また、この戦いは、中世ヨーロッパの軍事史においても重要な戦いの一つであり、長弓兵の有効性を示した戦いとして知られています。

トロワ条約

トロワ条約は、1420年5月21日に、フランスのトロワで締結された、イングランドとフランスの条約です。この条約により、ヘンリー五世は、フランス王シャルル六世の娘カトリーヌと結婚し、シャルル六世の死後、フランス王位を継承することが認められました。

トロワ条約は、フランスにとっては屈辱的な条約であり、フランス国民の多くは、この条約に反対しました。しかし、フランスは、アジャンクールの戦いで大敗を喫しており、イングランドに対して抵抗する力は残っていませんでした。

トロワ条約は、ヘンリー五世のフランス王位継承を認めた条約であり、イングランドの百年戦争における勝利を決定づけるものでした。しかし、この条約は、フランス国民の反発を招き、その後もフランスにおける戦争は続きました。

シェイクスピアの時代背景

シェイクスピアが「ヘンリー五世」を執筆した1599年頃は、イングランドはエリザベス一世の治世下にあり、スペインとの戦争や国内のカトリック教徒との対立など、不安定な状況にありました。

エリザベス一世は、プロテスタントの君主であり、カトリックの国であるスペインとの対立は避けられませんでした。1588年には、スペインの無敵艦隊がイングランドに侵攻してきましたが、イングランド海軍はこれを撃破し、イングランドはスペインに対する勝利を収めました。

また、国内では、カトリック教徒とプロテスタント教徒との対立が続いていました。エリザベス一世は、プロテスタントを優遇する政策をとっていたため、カトリック教徒は不満を抱いていました。

このような時代背景の中で、「ヘンリー五世」は、イングランド国民に国家への忠誠心と愛国心を訴える作品として受け入れられました。ヘンリー五世は、国家のために戦い、国民を団結させた理想的な君主として描かれており、エリザベス一世の治世下にあるイングランド国民にとって、共感しやすい人物であったと考えられます。

史実と劇の違い

シェイクスピアの「ヘンリー五世」は、史実を元にしていますが、劇的な効果を高めるために、史実とは異なる点がいくつかあります。

例えば、アジャンクールの戦いの場面では、イングランド軍の兵力はフランス軍の兵力よりもはるかに少なかったとされていますが、劇中では、イングランド軍とフランス軍の兵力はほぼ同じように描かれています。また、ヘンリー五世は、劇中では、勇敢でカリスマ性のある人物として描かれていますが、史実では、冷酷で計算高い一面もあったとされています。

シェイクスピアは、歴史的な事実を正確に描写することよりも、劇的な効果を高めることを重視していました。そのため、「ヘンリー五世」は、史実とは異なる点がありますが、歴史劇としてだけでなく、優れた文学作品としても高く評価されています。

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