## シェイクスピアのハムレットの思想的背景
ルネサンス期の人間観
「ハムレット」は16世紀後半から17世紀初頭にかけて書かれたと考えられていますが、この時期はヨーロッパにおいて中世から近世への転換点となるルネサンス期にあたり、人間の知性や理性、そして個人の価値を重視する考え方が広まりつつありました。中世では、人間の運命は神によって決められているという考え方が主流でしたが、ルネサンス期に入ると、人間は自らの意志と理性によって運命を切り開くことができると考えられるようになりました。
宗教改革の影響
16世紀初頭に始まった宗教改革は、カトリック教会の権威に対する批判として、聖書の解釈や信仰のあり方を見直す動きでありました。「ハムレット」の舞台となるデンマークは、この時代、宗教改革の影響を強く受けた国の一つでした。劇中では、死後の世界や罪と罰、復讐の是非などが重要なテーマとして扱われていますが、これらは当時の宗教観と深く結びついています。
復讐の是非と倫理観
「ハムレット」の大きなテーマの一つに、復讐劇としての側面が挙げられます。ハムレットは、父の復讐を果たすべきか葛藤し、それが彼の行動の大きな動機となっています。当時のエリザベス朝イングランドでは、復讐は必ずしも否定的な行為とは見なされていませんでしたが、一方で、キリスト教の教えでは復讐は禁じられており、ハムレットは二つの倫理観の間で苦悩することになります。
懐疑主義とメランコリー
ハムレットは非常に知的で思慮深い人物として描かれていますが、同時に、憂鬱で厭世的な側面も持ち合わせています。これは、当時の知識人の間で広まっていた懐疑主義やメランコリーといった思想を反映していると考えられます。ハムレットは、人間存在の不確かさや、世界の不条理さについて深く思い悩んでおり、それが彼の行動に影を落としていると言えるでしょう。