シェイクスピア「リチャード二世」の形式と構造
ウィリアム・シェイクスピアの歴史劇「リチャード二世」は、シェイクスピアの作品群の中でも特に形式と構造において注目される作品です。この劇は、王権の正統性と権力の移譲に焦点を当て、詩的な言語と厳格な形式を通じて深い感情と政治的なメッセージを表現しています。
形式の特徴
「リチャード二世」は、シェイクスピアの他の多くの戯曲と同様に、五行詩の押韻形式(ヨーデル体)で書かれています。この形式は、英語の詩劇において最も高貴な表現とされ、王や貴族の言葉として適していると考えられていました。特に「リチャード二世」では、全文がこの形式で書かれており、他のシェイクスピアの歴史劇と比較しても、散文の使用が非常に少ないです。この押韻形式は、劇の高雅なトーンとリチャード二世の王としての身分を強調しています。
構造の分析
構造的に「リチャード二世」は、通常の五幕構成を採用していますが、その展開には幾つかの特徴があります。第一幕では、リチャード二世の王権が挑戦される場面から物語は始まります。ヘンリー・ボリングブローク(後のヘンリー四世)とトマス・モウブレーの対立が、リチャードの裁定によって新たな争いを引き起こします。この幕における対立の設定は、後の幕での政治的な展開と直接的に結びついています。
第二幕と第三幕では、リチャードの権力が徐々に弱まり、ボリングブロークの力が増していく様子が描かれます。リチャードがアイルランドに遠征している間に、ボリングブロークは支持者を増やし、リチャードの地位を脅かす動きを強めていきます。この中間部は、王位の不安定さと権力争いの激化を効果的に示しています。
第四幕では、リチャードの権力が完全に崩壊し、ボリングブロークによる王座の奪取が完了します。リチャードの退位のシーンは、この劇のクライマックスであり、彼の身分と権力の喪失が痛切に描かれています。
最終幕、第五幕では、新たな王としてのボリングブロークの統治が始まりますが、彼自身もまた新たな脅威に直面していることが示されます。この幕は、権力の移動がもたらす不確実性と不安定さを反映しており、劇全体のテーマを強調して締めくくられます。
「リチャード二世」の形式と構造は、登場人物の心理や政治的な動きを深く掘り下げるための舞台を設けており、シェイクスピアの劇作術の妙を見事に示しています。