サッカレーのバリーリンドンが映し出す社会
ウィリアム・メイクピース・サッカレーによる小説『バリー・リンドン』は、18世紀のヨーロッパを舞台にした作品で、主人公レッドモンド・バリーの野心と彼の社会的昇進、そして最終的な堕落を描いています。この小説は、当時の社会構造、特に階級と身分制度の厳格さを鮮明に映し出しています。
階級と社会的野心
バリー・リンドンは、アイルランドの貧しい家庭に生まれ、貴族階級に入り込むことを夢見る青年です。彼の野心は、18世紀のヨーロッパ社会が持っていた階級間の移動の困難さを浮き彫りにします。バリーが経験する社会的登攀は、結婚、賭け事、戦争といった手段を通じて行われますが、これらはすべて当時の社会が個人の地位向上のために用意していた数少ない手段であったことを示しています。
道徳性と個人主義
サッカレーはバリーのキャラクターを通して、18世紀の個人主義と道徳性の狭間にある葛藤を探ります。バリーはしばしば自己中心的であり、彼の行動は自己利益に直結しています。これは、当時の社会が個人の成功をどのように評価していたかを反映しており、道徳的な考慮よりも社会的地位や富の獲得が優先される傾向にあったことを示しています。
戦争と平和
『バリー・リンドン』の中で戦争は重要な役割を果たします。バリーが兵士として従軍することで、彼は階級を超えて自身の地位を向上させるチャンスを得ます。この点で、サッカレーは戦争が社会的動機と結びついていること、そしてそれが個人の運命を左右する手段として利用されることを描いています。戦争がもたらす破壊と苦痛にもかかわらず、それが社会的な昇進の道具として見られていたのです。
結婚と家族
バリーの社会的昇進において、結婚は中心的なテーマです。彼は富裕な未亡人との結婚を通じて貴族階級に入り込みますが、この結婚は愛ではなく計算に基づいています。これは、結婚が個人の感情や愛情よりも、社会的・経済的利益を追求する手段として使われていたことを示しています。バリーの家族関係の破綻は、最終的に彼の社会的地位の低下につながり、サッカレーはこのような結婚が個人と社会に与える影響を批判的に描いています。
サッカレーの『バリー・リンドン』は、18世紀のヨーロッパ社会の複雑さと厳格な階級制度を生き生きと描き出し、今日の読者にも多くの示唆を与える作品です。