ゴーゴリの外套の話法
語り手の視点
「ゴーゴリの外套」の語り手は三人称全知の語り手です。語り手は作中人物の思考や感情に自由にアクセスし、読者に直接語りかけることもあります。例えば、アカーキー・アカーキエヴィチの同僚の反応について、「若者たちは、自分たちが上品で現代的な人間であると示そうとして、彼のことをあざ笑っていた」と説明しています。これは語り手が登場人物の内心を把握していることを示しています。また、語り手が読者に向けて「だが、読者諸君には、彼がどんな部署で役人をしていて、どんな仕事をし、どんな階級だったかを知っておいてもらいたいだろう」と語りかける場面もあります。このように、語り手は物語の外側から登場人物や出来事を描写するだけでなく、登場人物の内面に踏み込み、読者とも積極的にコミュニケーションをとる存在として描かれています。
groteske（グロテスク）
「ゴーゴリの外套」では、グロテスクな描写が効果的に用いられています。グロテスクとは、奇怪で醜悪なもの、滑稽なものと恐ろしいものが混在したものを指します。アカーキー・アカーキエヴィチの外見や行動は、グロテスクな描写の好例です。彼は小柄で痩せており、顔色は不健康で、髪は薄くなっています。彼は自分の仕事に没頭し、それ以外のことは何も考えていないように見えます。このような彼の姿は滑稽でありながら、同時に哀れさを漂わせています。また、物語の後半に登場する「重要な人物」もグロテスクな人物として描かれています。彼は傲慢で自己中心的であり、アカーキー・アカーキエヴィチの窮状に対して全く同情を示しません。彼の権威的な態度と滑稽なほどの自意識過剰は、読者に不快感と笑いを同時に抱かせます。
リアリズムと幻想
「ゴーゴリの外套」は、リアリズムと幻想が巧みに融合した作品です。物語の舞台となる19世紀前半のサンクトペテルブルクの官僚社会は、非常にリアルに描写されています。役人たちの退屈な日常、貧しい人々の暮らし、社会全体に蔓延する腐敗など、当時の社会状況が鮮やかに描き出されています。一方、アカーキー・アカーキエヴィチが死後に幽霊となって現れる場面は、幻想的な要素が強いと言えるでしょう。彼の幽霊は、生前と同じように外套を探し求めて街を彷徨います。この幻想的な描写は、アカーキー・アカーキエヴィチの絶望と、社会に対する復讐心を象徴していると考えられます。リアリズムと幻想の対比が、物語に深みと複雑さを与えています。