ゲーテのファウストから学ぶ時代性
1.
近代人の苦悩と葛藤
『ファウスト』は、18世紀末から19世紀初頭にかけてのドイツで執筆されました。この時代は、啓蒙主義の隆盛とフランス革命、ナポレオン戦争といった激動の時代であり、人々の価値観や社会構造が大きく変革する転換期でした。
主人公ファウストは、伝統的な学問や知識に飽きたらず、真理や生の意味を渇望する、まさに近代人の典型といえます。彼は、中世的な価値観からの脱却と、新しい時代における自己実現を模索する姿を通して、近代人の苦悩と葛藤を象徴的に体現しています。
2.
知性と情熱の相克
ファウストは、理性や知性を重視する一方で、愛や美、自然への憧憬といった情熱的な側面も持ち合わせています。しかし、これらの二つの側面はしばしば対立し、ファウストは葛藤に苦しみます。
これは、理性と科学を重視する啓蒙主義と、人間の感情や主観性を重視するロマン主義という、当時の二つの大きな思想潮流の対立を反映しているとも考えられます。ファウストは、この二つの潮流の間で揺れ動く近代人の姿を象徴しているのです。
3.
近代社会における個人の責任と自由
ファウストは、悪魔メフィストフェレスとの契約を通して、自らの欲望を追求する自由を獲得します。しかし、その自由は同時に、自己の選択と行動に対する責任を伴うものでした。
これは、近代社会において個人が獲得した自由と責任の問題を提起しています。封建的な束縛から解放された近代人は、自己の選択と行動によって自らの運命を切り開いていくことが求められます。ファウストの物語は、近代社会における個人の自由と責任の重さを改めて問いかけるものです。
4.
絶え間ない進歩と発展への希求
ファウストは、現状に満足することなく、常に高みを目指し、前進し続ける存在として描かれています。彼は、知識や経験を求めて飽くなき探求を続け、新たな世界を創造しようとします。
これは、科学技術の進歩や社会の変革が著しかった当時の時代精神を反映しています。人々は、進歩と発展を信じ、より良い未来を創造しようと努力していました。ファウストの物語は、そうした時代における人々の絶え間ない進歩と発展への希求を象徴しています。