## ケルゼンの自然法論と法実証主義の思想的背景
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19世紀末~20世紀初頭の知的状況
ケルゼン(Hans Kelsen, 1881-1973)が生きた19世紀末から20世紀初頭は、ヨーロッパにおいて大きな思想的転換が起きていた時代でした。啓蒙主義以来の合理主義や自然法思想は、二つの世界大戦やロシア革命といった現実を前に、その限界を露呈しつつありました。
こうした時代背景の中、法学の分野においても、伝統的な自然法論が見直され、法の客観性や科学性を重視する法実証主義が台頭してきました。ケルゼンは、このような時代の流れの中で、独自の法実証主義理論を構築したのです。
### 2.
ケルゼンに影響を与えた思想家たち
ケルゼンの思想は、当時の様々な思想家たちの影響を受けています。その中でも特に重要なのは、カントの超越論哲学、新カント派のバデン学派の思想、そしてエルンスト・マッハの認識論です。
カントは、人間の理性には限界があり、物自体の認識は不可能であると主張しました。ケルゼンは、カントの超越論哲学の影響を受け、法もまた、人間の理性によって構成されたものであると考えました。
新カント派のバデン学派は、価値判断と事実判断を明確に区別することを主張しました。ケルゼンは、このバデン学派の思想の影響を受け、法と道徳を明確に区別し、法の客観性を重視する法実証主義の立場をとりました。
エルンスト・マッハは、物理学者でありながら、経験論的な立場から、形而上学的な概念を批判しました。ケルゼンは、マッハの認識論の影響を受け、法理論から形而上学的な概念を排除しようと試みました。
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ケルゼンが批判の対象とした自然法論
ケルゼンは、伝統的な自然法論を批判の対象としていました。彼は、自然法論が、法と道徳を混同し、法の客観性を損なっていると主張しました。
自然法論は、法の根拠を人間の理性や神意に求め、普遍的かつ不変の法が存在すると考えます。しかし、ケルゼンは、そのような法の存在を証明することは不可能であり、法はあくまで人間の作ったものであると主張しました。
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第一次世界大戦後の社会状況
第一次世界大戦後、ヨーロッパは大きく混乱し、社会不安が広がっていました。このような状況下では、法の安定性と予測可能性が強く求められました。
ケルゼンは、このような社会状況を背景に、法の客観性と明確性を重視する法実証主義を主張したと考えられます。彼の理論は、法の解釈や適用において、恣意性を排除し、法の安定性を確保することを目指したものでした。