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ケルゼンの純粋法学を深く理解するための背景知識

ケルゼンの純粋法学を深く理解するための背景知識

1.19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパの知的状況

ケルゼンが純粋法学を構想した19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパは、大きな知的変革期にありました。伝統的な形而上学や神学に対する批判が高まり、科学的な思考方法が台頭してきました。この時代精神は、実証主義や新カント主義といった哲学潮流に代表されます。実証主義は、経験的に検証可能なもののみを知識として認め、形而上学的な思弁を排斥する立場です。新カント主義は、カントの認識論を継承しつつ、認識の対象を経験的なものに限定する立場です。これらの哲学潮流は、法学にも影響を与え、法を社会現象として科学的に研究しようとする動きが出てきました。

2.法実証主義

純粋法学は、法実証主義と呼ばれる法思想の流れに位置付けられます。法実証主義は、法とは、国家によって制定された実定法であると考える立場です。法実証主義は、法の妥当性を、法の内容ではなく、制定手続きに求めます。つまり、法の内容が道徳的に正しいか否かは、法の妥当性とは無関係であると考えるのです。法実証主義の代表的な論者としては、イギリスの法学者ジョン・オースティンや、オーストリアの法学者ハンス・ケルゼンなどが挙げられます。

3.新カント主義

ケルゼンの純粋法学は、新カント主義の影響を強く受けています。新カント主義は、カントの超越論的観念論を継承しつつ、認識の対象を経験的なものに限定する立場です。新カント主義は、認識の枠組みである「カテゴリー」を重視し、認識はカテゴリーによって構成されると考えます。ケルゼンは、新カント主義の考え方を法学に適用し、法を認識するためのカテゴリーとして「規範」という概念を導入しました。ケルゼンは、法は規範の体系であり、規範は「もし~ならば、~すべきである」という構造を持つとしました。

4.国家法学

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ドイツを中心に国家法学と呼ばれる法学派が隆盛しました。国家法学は、国家を法の唯一の源泉とみなし、法を国家の意思の表現と考える立場です。国家法学は、法の妥当性を国家の権威に求め、法の内容を国家の目的に従属させるとしました。ケルゼンは、国家法学の国家中心主義的な考え方を批判し、法を国家から独立した自律的な体系として捉えようとしました。

5.第一次世界大戦後の社会状況

第一次世界大戦後、ヨーロッパ社会は大きな混乱に陥りました。旧来の価値観や秩序が崩壊し、社会不安や政治的対立が激化しました。このような状況下で、法の役割や法学のあり方が問われるようになりました。ケルゼンは、純粋法学を通じて、法を政治やイデオロギーから解放し、客観的で科学的な法学を確立しようとしました。ケルゼンの純粋法学は、当時の社会状況に対するケルゼンなりの解答であったと言えるでしょう。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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