グロチウスの自由海論の関連著作
ジョン・セルデンの「閉鎖海論」 (Mare Clausum, 1634)
「グロチウスの自由海論」に対する最も重要な反論として知られるのが、イギリスの法学者ジョン・セルデンの「閉鎖海論」です。セルデンはこの著作の中で、歴史的および法的根拠に基づき、国家が特定の海域を領有し、その利用を制限することが可能であると主張しました。
セルデンは、古代ローマや中世の国家が海洋に対して排他的な支配権を主張した事例を挙げ、歴史的に「海の自由」は認められていなかったと論じました。また、漁業資源の保護や沿岸国の安全保障などの観点から、国家が自国の利益を守るために海域を管理することは正当であると主張しました。
「閉鎖海論」は、当時のイギリスの海洋進出政策を正当化する目的で書かれたという側面も持ち合わせています。しかし、国家主権と海洋の自由に関する議論に大きな影響を与え、国際法の発展に重要な役割を果たしました。
フェルナンド・バサント・デ・ソトの「インドにおける正義と法」 (De justitia et jure, 1560)
スペインの神学者であり法学者であったフェルナンド・バサント・デ・ソトは、「インドにおける正義と法」の中で、スペインによるアメリカ大陸征服の正当性について論じました。彼は、先住民にも自然法に基づく権利が認められるとしながらも、スペイン国王が新大陸を発見し、布教活動を行っていることから、その支配権を主張できるとしました。
バサント・デ・ソトは、グロチウスが「自由海論」で展開した「海の自由」の概念に直接言及したわけではありません。しかし、彼の著作は、当時のヨーロッパ諸国が海外進出を進める中で、領土や資源の所有権、先住民との関係など、新たな法的課題に直面していたことを示しています。
フランシスコ・デ・ヴィトリアの「インディアス問題に関する講義」 (Relectiones de Indis, 1539)
スペインのサマランカ学派の中心人物であったフランシスコ・デ・ヴィトリアは、「インディアス問題に関する講義」の中で、スペインによるアメリカ大陸征服の法的・道徳的な問題点を追及しました。彼は、先住民にも自然法に基づく権利が認められ、スペインは彼らに対して正当な理由なく戦争を仕掛けてはならないと主張しました。
ヴィトリアは、グロチウスよりも前の時代に活躍した人物であり、「海の自由」については明確な立場を示していません。しかし、彼の著作は、当時のヨーロッパ社会において、植民地支配の正当性や異文化との共存などが重要な問題として認識され始めていたことを示しています。