ギゾーのヨーロッパ文明史の批評
歴史観
フランソワ・ピエール・ギゾーの『ヨーロッパ文明史』(Histoire de la civilisation en Europe) は、1828年から1832年にかけて出版された歴史書です。ヨーロッパ文明の発展を包括的に捉え、その進歩を強調したこの作品は、出版当時大きな成功を収め、広く読まれました。しかし、その歴史観は、現代ではいくつかの点で批判にさらされています。
進歩史観への批判
ギゾーはヨーロッパ文明を、理性と自由の進歩という観点から捉え、古代から近代にかけて、一直線的に発展してきたと主張しました。これは、19世紀にヨーロッパで広く受け入れられていた進歩史観を反映したものです。しかし、20世紀以降、歴史は必ずしも進歩するとは限らないという認識が広まり、ギゾーの歴史観は、歴史の複雑さや多様性を十分に捉えきれていないという批判を受けるようになりました。
ヨーロッパ中心主義
ギゾーはヨーロッパ文明を、世界史の中で特権的な位置に置いています。彼は、ヨーロッパ文明が、理性、自由、キリスト教などの普遍的な価値観に基づいて発展してきたとし、他の文明を劣ったものと暗に位置付けています。このようなヨーロッパ中心主義的な視点は、現代では、多文化主義やグローバリゼーションの観点から批判の対象となっています。
史料批判の不足
ギゾーは、当時の歴史学の基準からすると、必ずしも史料批判を厳密に行なっていたとは言えません。彼は、自らの歴史観に合致するような史料を選択的に利用する傾向があり、客観的な歴史記述を欠いているという指摘もあります。現代の歴史学では、一次史料に基づいた実証的な研究が重視されており、ギゾーの史料利用の方法は、現代の基準からすると不十分と言えます。
これらの批判にもかかわらず、『ヨーロッパ文明史』は、19世紀の歴史観を理解する上で重要な作品であり、歴史学に大きな影響を与えたことは間違いありません.