## ギゾーのヨーロッパ文明史の光と影
### 1.
ヨーロッパ文明の進歩を強調した「光」
フランソワ・ピエール・ギゾーは19世紀フランスの歴史家であり、その代表作『ヨーロッパ文明史』は、ヨーロッパ史を網羅的に解説した画期的な著作として知られています。ギゾーは本書において、古代ギリシャ・ローマに端を発するヨーロッパ文明が、キリスト教やゲルマン民族の影響を受けながら、中世を経て近代へと発展していく過程を、政治、社会、文化といった多角的な視点から描き出しました。
ギゾーは、ヨーロッパ文明を特徴づける要素として、理性、自由、法の支配などを挙げ、これらの要素が歴史の中で進歩してきたと主張しました。彼は、宗教改革や啓蒙主義といった歴史的事件が、人間の理性を解放し、自由と進歩への道を切り開いたと評価しています。また、イギリスにおける議会政治の発展やフランス革命などを取り上げ、市民社会の形成と政治制度の進歩にも注目しました。
### 2.
批判的な視点が欠如した「影」
ギゾーの『ヨーロッパ文明史』は、19世紀におけるヨーロッパ中心主義的な歴史観を体現した作品として、現在では批判的な見方も少なくありません。例えば、彼はヨーロッパ文明を他の文明よりも優越した存在とみなし、植民地支配を正当化するような記述も見られます。
また、彼の歴史観は、進歩史観に基づいており、歴史を「進歩」という単線的なプロセスとして捉えている点も指摘されています。これは、歴史における停滞や後退、多様な文明の存在といった複雑な側面を十分に考慮していないという批判につながっています。
さらに、ギゾーは、フランス革命を「自由と平等」を実現するための必然的な出来事として高く評価していますが、革命に伴う暴力や混乱については十分に言及していません。
### 3.
「光と影」を踏まえた現代における評価
ギゾーの『ヨーロッパ文明史』は、今日ではその限界も指摘されていますが、19世紀におけるヨーロッパの歴史観を理解する上で重要な著作であることに変わりはありません。彼の歴史観は、当時のヨーロッパ社会に広く共有されており、後の歴史研究にも大きな影響を与えました。
現代においては、彼の主張をそのまま受け入れることはできません。しかし、彼の著作を批判的に読み解くことを通じて、ヨーロッパ中心主義的な歴史観がどのように形成されたのか、歴史をどのように捉えるべきなのかといった重要な問題について考えるきっかけを与えてくれます.