## キケロの老年についてに関連する歴史上の事件
###
共和制ローマの危機
キケロが「老年について」を執筆した紀元前44年は、共和制ローマが末期的な危機に瀕していた時代でした。長年の内乱と権力闘争を経て、ガイウス・ユリウス・カエサルが終身独裁官に就任し、事実上の君主政を敷いていたのです。
カエサルの台頭は、ローマの伝統的な共和制の価値観、すなわち、市民の自由、元老院の権威、そして法の支配に対する重大な脅威と見なされていました。キケロ自身も、カエサルと激しく対立した人物の一人でした。彼は優れた弁論家として、カエサルの政策を批判し、共和制の理念を擁護する演説を何度も行いました。
###
キケロの政治的失脚と「老年について」の執筆
しかし、カエサルの権力は圧倒的であり、キケロは政界から追放され、故郷に隠棲することを余儀なくされます。失意の底に突き落とされたキケロでしたが、彼は筆を置きませんでした。政治活動の道を閉ざされた彼は、その代わりに著述活動に没頭することで、自らの思想や理想を後世に残そうとしました。
「老年について」も、そうした状況下で執筆された作品の一つです。老境を迎えたキケロが、自身の経験や知識に基づいて、老いの不安や恐怖を克服し、人生の最終章をいかに豊かに生きるかを考察した哲学対話篇です。