## キケロの老年について
### 老いの四つの苦痛に対する反駁の対称性
『老年について』は、キケロが晩年に執筆した対話篇であり、登場人物であるカトーが老いに対する苦情に反駁することで、老いにも幸福は可能であると主張します。 この作品では、老いの四つの苦痛として、「活動の場からの引退」「肉体の衰え」「快楽の減退」「死の接近」が挙げられます。 カトーはそれぞれの苦痛に対して、以下のように対称的な論法を展開することで反駁を試みます。
1. **活動の場からの引退**に対しては、**精神的な活動の重要性**を強調します。 肉体的な活動は衰えても、知性や精神は老いても成長し続けることができると主張し、老後こそが精神的な活動に専念できる豊かな時間であると説きます。
2. **肉体の衰え**に対しては、**精神の優位性**を説きます。 若者の肉体的な強さは一時的なものに過ぎず、真の強さは精神的な強靭さにあると主張します。 老いは肉体の衰えではなく、精神の成熟と捉えるべきであると反駁します。
3. **快楽の減退**に対しては、**理性による節制**の重要性を説きます。 若者の享楽は節度を欠き、過剰な欲望に支配されていると批判します。 一方で、老いは理性によって欲望を制御し、真の幸福に繋がる穏やかな喜びを享受できると主張します。
4. **死の接近**に対しては、**魂の不滅**と**死後の世界への希望**を提示します。 死は終わりではなく、魂が肉体から解放される新たな始まりの段階であると捉えます。 また、死後の世界では、生前の徳に応じて永遠の幸福が約束されていると説き、死への恐怖を払拭しようとします。
このように、キケロは『老年について』において、老いの否定的な側面として挙げられる四つの苦痛に対して、それぞれ対称的な肯定的な側面を提示することで、老いに対する反駁を試みていることが分かります。