カルヴィーノの見えない都市の対極
現実の都市の網羅的な記録:『パリ・19世紀の首都』
ヴァルター・ベンヤミンがその生涯をかけて構想し、未完に終わった作品、『パリ・19世紀の首都』。この作品は、カルヴィーノの空想的で断片的な都市描写とは対照的に、19世紀パリという具体的な都市を、膨大な資料と詳細な記述によって描き出そうとしたものです。
ベンヤミンは、古書収集家としても知られ、古文書、新聞記事、写真、挿絵など、当時のパリの姿を伝えるありとあらゆる資料を収集しました。そして、それらに基づき、都市の建築、街路、アーケード、カフェ、売娼街など、多岐にわたる側面を克明に記録し、分析しようと試みました。
『パリ・19世紀の首都』は、単なる都市の記録にとどまらず、近代資本主義の隆盛と衰退、そしてそれが人々の生活や意識に及ぼした影響を、パリという都市を通して考察しようとした壮大な試みでした。
ベンヤミンは、1940年にナチスから逃れる途中で自ら命を絶ちましたが、未完に終わったこの作品は、20世紀の思想史に大きな影響を与え、都市研究、文学、芸術など、様々な分野において参照され続けています。