カルヴァンのキリスト教綱要の周辺
宗教改革期における本書の位置づけ
16世紀のヨーロッパで起こった宗教改革は、カトリック教会の権威に対する異議申し立てから始まった宗教運動です。マルティン・ルターが1517年に「95ヶ条の論題」をヴィッテンベルク城教会の扉に掲げたことを発端とし、その後、ヨーロッパ各地に改革の波が広がっていきました。
ジャン・カルヴァンは、この宗教改革の第二世代に位置する人物です。彼は、ルターの影響を受けながらも独自の教理を展開し、スイスのジュネーブを中心に改革運動を推進しました。カルヴァンは、教会と国家の関係、聖書解釈、予定説などをめぐって、カトリック教会だけでなく、他の宗教改革者たちとも激しく対立しました。
「キリスト教綱要」の内容と特徴
「キリスト教綱要」は、1536年に初版が出版されたカルヴァンの主著です。当初は小冊子でしたが、その後、改訂を重ね、1559年の最終版では80章からなる大著となりました。本書は、カルヴァンの神学思想の集大成であり、聖書解釈、神の主権、キリスト論、教会論、予定説など、キリスト教神学の主要なテーマを網羅しています。
本書の特徴としては、まず、聖書を唯一の権威として重視する姿勢が挙げられます。カルヴァンは、聖書こそが神の言葉であり、人間の伝統や経験よりも優先されるべきだと主張しました。また、神の絶対的主権を強調し、人間の救済はすべて神の選びによって predetermined されるという予定説を展開しました。さらに、教会の役割を重視し、教会は神の言葉の宣教と聖礼典の執行を通じて、人々を信仰へと導く役割を担うとしました。
本書が与えた影響
「キリスト教綱要」は、カルヴァンが生きた時代だけでなく、その後のプロテスタント教会に多大な影響を与えました。本書は、改革派教会、長老派教会、会衆派教会など、多くのプロテスタント教派の教義的基礎となりました。また、本書はヨーロッパ各地で翻訳され、広く読まれ、宗教改革の思想を広める上で大きな役割を果たしました。
さらに、本書は神学書であると同時に、政治や社会にも影響を与えました。カルヴァンの思想は、教会と国家の関係を問い直し、近代市民社会の形成にも寄与したとされています。