オーウェンの新社会観に影響を与えた本
ウィリアム・ゴドウィンの『人間的不平等論』
ロバート・オウエンは、18世紀後半から19世紀前半にかけてイギリスで活躍した社会思想家、実業家です。彼は、人間は生まれながらにして善であり、環境によって悪に染まると考え、労働者の労働環境や生活環境を改善することで、理想的な社会を実現できると信じていました。彼の思想は、当時の社会に大きな影響を与え、後の社会主義思想の源流の一つともなりました。
オウエンの思想形成に影響を与えた人物や書物は数多くありますが、中でも特に重要なのが、ウィリアム・ゴドウィンとその著書『人間的不平等論』（原題: Enquiry concerning Political Justice, and its Influence on General Virtue and Happiness）です。ゴドウィンは、18世紀イギリスの哲学者、政治思想家で、アナーキズムの先駆者の一人として知られています。
1793年に出版された『人間的不平等論』は、政府や国家といった権力機構を否定し、個人の理性と道徳に基づく社会の実現を訴えた画期的な書物でした。ゴドウィンは、人間は本来、理性と協調性を備えた存在であり、私有財産や国家といった制度によって、その本性が歪められていると主張しました。そして、教育の普及によって人々の理性と道徳性を高め、政府や国家といった制度を不要にすることで、真の自由と平等が実現すると説きました。
オウエンは、ゴドウィンの思想に深く共鳴し、彼自身の社会改革思想の基礎としました。特に、人間の性格は環境によって形成されるというゴドウィンの主張は、オウエンの思想の根幹をなすものでした。オウエンは、労働者の劣悪な労働環境や生活環境が、彼らの貧困や無知、犯罪の原因となっていると考え、環境の改善こそが社会問題の解決策だと確信していました。
オウエンは、ゴドウィンの思想を実践に移すべく、自らの工場で労働環境の改善や教育制度の導入など、様々な社会改革を実践しました。彼の試みは、当時の社会に大きな反響を呼び、多くの支持者を集めました。
ウィリアム・ゴドウィンと『人間的不平等論』は、ロバート・オウエンの社会改革思想に決定的な影響を与え、彼の思想形成に欠かすことのできない重要な要素となりました。ゴドウィンの思想は、オウエンの思想の根底に流れ続け、彼のその後の社会改革運動の原動力となりました。