## エールリヒの法社会学基礎論の機能
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法多元論の提唱
エールリヒの『法社会学基礎論』(1913年)は、国家が制定する法のみを法として捉える従来の法学の枠組みを大きく拡張し、「法は社会の中に存在する」という視点、すなわち法社会学の立場から、法のあり方を根本的に問い直した画期的な著作として位置づけられます。当時の支配的な法学の考え方は、法とは国家が制定するものであり、それ以外のものは法ではないというものでした。しかし、エールリヒは、現実の社会においては、国家の法以外にも、人々の社会生活を秩序づける様々な規範が存在し、それらもまた法として機能していることを主張しました。
具体的には、エールリヒは、「法は社会の中に生きている」という立場から、国家が制定する法を「制定法」と呼び、それ以外の社会の中に自生的に生まれている法を「社会生活における事実上の法」と呼び、両者を明確に区別しました。そして、現実の人々の社会生活における紛争解決には、国家が制定する制定法よりも、むしろ社会生活における事実上の法の方が大きな役割を果たしていると指摘しました。
エールリヒは、社会生活における事実上の法を、さらに以下の3つに分類しました。
* **慣習法**: 社会の中で長年受け継がれ、人々の行動を規律するようになった慣習
* **道徳**: 社会における倫理観や道徳観に基づき、人々の行動を規範として作用するもの
* **組織内規**: 企業や組合など、特定の組織内で成員を拘束する規則
これらの社会生活における事実上の法は、国家が制定する制定法とは異なり、明確な条文や強制力を持っているわけではありません。しかし、人々の間で広く共有され、自発的に守られることによって、社会秩序を維持する上で重要な役割を果たしていることをエールリヒは指摘しました。
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法の動態性と可変性の強調
エールリヒは、法を社会から切り離された静的なものではなく、社会とともに変化し続ける動的なものとして捉えました。そして、法の変化の源泉は、社会生活における事実上の法にこそあると主張しました。
エールリヒによれば、法はまず、社会生活における事実上の法として人々の行動を規律するようになり、その後に国家によって制定法として成文化されると考えました。つまり、社会における人々の行動や相互作用が変化し、それに伴い社会生活における事実上の法も変化していく中で、国家はそれらを後から追いかけるようにして制定法として整備していくというわけです。
このエールリヒの考え方は、法の制定や解釈において、社会の実態や人々の意識を重視する必要性を示唆しています。法は社会から遊離した存在ではなく、社会の変化に柔軟に対応し、常に社会生活における事実上の法との調和を図りながら発展していくべきものであるという視点を与えていると言えます。
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法社会学の必要性と役割の提示
エールリヒは、従来の法学が国家の制定する法のみを対象としてきたことを批判し、現実の社会における法の機能を理解するためには、社会生活における事実上の法を含めた幅広い視点から法を研究する「法社会学」が必要であると主張しました。
エールリヒによれば、法社会学は、単に法の現状を記述するだけでなく、法の形成や効果、社会との相互作用などを実証的に分析することで、より良い法のあり方を探求していくことを目指すべきであると考えました。
エールリヒのこの主張は、法学という学問分野に新たな視点を提供し、法社会学という新しい研究領域の確立を促すものでした。そして、法社会学は、その後、法と社会の関係を分析する学問分野として発展し、現代社会における様々な問題に取り組む上で欠かせないものとなっています。
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