## エールリヒの法社会学基礎論の周辺
###
1. 社会法学との関連性
エールリヒは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したオーストリアの法学者であり、社会法学の代表的な論者として知られています。社会法学は、法を社会現象として捉え、法と社会との相互作用を重視する法学の立場です。従来の法学が、法典や判例などの法規範を研究対象としていたのに対し、社会法学は、法が社会の中でどのように機能し、社会にどのような影響を与えているのかに関心を持ちました。
エールリヒは、社会法学の立場から、法の根源は社会にあると主張しました。彼は、国家によって制定された法（制定法）だけでなく、社会の中で自然発生的に形成される規範（社会規範）も法として認め、「生ける法」と呼びました。そして、制定法は社会規範を基礎として成立し、社会規範と調和することによって初めて実効性を持ちうると考えました。
###
2. 法多元主義との関係
エールリヒの「生ける法」の概念は、法多元主義とも深く関わっています。法多元主義とは、社会には国家が制定する法以外にも、様々な規範が存在し、それらが法としての機能を果たしていると考える立場です。
従来の法学は、法を国家によって独占的に制定されるものと捉え、国家以外の主体が作る規範を法として認めてきませんでした。しかし、現実の社会においては、国家法以外にも、商取引における慣習法や国際社会における国際法など、様々な規範が人々の行動を規律しています。法多元主義は、このような現実を踏まえ、法の概念を拡張し、国家法以外の規範も法として認めようとするものです。
エールリヒは、「生ける法」として社会規範を法体系に組み込むことで、法多元主義の先駆的な役割を果たしました。彼の思想は、後の法多元主義の展開に大きな影響を与えています。
###
3. 批判と影響
エールリヒの法社会学は、従来の法学に対する批判として登場し、その後の法学の発展に大きな影響を与えました。しかし、その一方で、彼の思想は、法の概念を曖昧にするものだとして批判も受けています。
例えば、社会規範を法として認める場合、どの程度の規範を法として認めるのか、その線引きが難しいという問題があります。また、社会規範は時代や地域によって変化するため、法の安定性を損なう可能性も指摘されています。
しかし、これらの批判にもかかわらず、エールリヒの法社会学は、法を社会との関連において捉えることの重要性を示し、法学に新たな視点をもたらしたという点で、その意義は大きいと言えるでしょう。彼の思想は、現代の法社会学においても重要な位置を占めており、法と社会の関係を考える上で欠かせないものとなっています。