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エールリヒの法社会学基礎論の位置づけ

エールリヒの法社会学基礎論の位置づけ

1.はじめに

 オイゲン・エールリヒ(Eugen Ehrlich 1862-1922)は、オーストリア帝国時代のブコビナ地方(現ウクライナ)チェルニウツィ(現チェルニウツィー)に生まれ、ウィーン大学で法学を修めた法学者である。彼は、1896 年からチェルニウツィ大学でローマ法の教授を務め、1918 年に同大学が閉鎖されるまでその地位にあった。その間、1905 年に主著『法社会学基礎論』を著し、法社会学の創始者の一人として、法実証主義が支配的であった当時の法学に対して、社会における法の現実を重視する独自の学説を主張した。

2.「生ける法」としての社会

 エールリヒは、法を国家によって制定されるものという伝統的な見方に疑問を呈し、「法の重心は、制定法の中にあるのではなく、社会の中にこそある」と主張した。彼によれば、法とは、社会において人々の行動を規律している事実上の規範であり、それは必ずしも国家によって制定されたものではなく、社会の中で自然発生的に形成され、人々の間で受け入れられているものなのである。

3.法の多層構造

 エールリヒは、社会における法の存在形態として、①社会生活における事実上の行動様式としての「社会的結合体における生ける法」、②社会生活上の取引を規律する「法命題」、③裁判や法学によって体系化された「法的規則」という3つの層を提示した。そして、このうち最も根源的なものが「社会生活における生ける法」であるとし、国家が制定する「法的規則」は、「生ける法」のごく一部にすぎないと考えた。

4.法社会学の課題

 エールリヒは、法社会学の課題として、「社会生活における生ける法」を研究することを挙げた。彼は、社会の様々な集団における慣習や取引の仕方を観察し、人々が実際にどのような規範に従って行動しているのかを明らかにしようとした。そして、このような実証的な研究を通じて、社会における法の真の姿を明らかにすることができると考えたのである。

5.その後の法社会学への影響

 エールリヒの法社会学は、その後の法社会学に大きな影響を与え、法多元主義の観点や、法の動態性、社会における法の機能に関する議論などを発展させる契機となった。現代においても、彼の思想は、法と社会の関係を考える上で重要な視点を提供していると言えるだろう。

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