## エーコのボードリーノの選択
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物語の語り部であるボードリーノは、虚構と現実を巧みに操る語り手として描かれています。
ボードリーノは、物語の中で自らの体験や見聞を語りますが、その中には明らかに事実とは異なる誇張や虚構が含まれています。彼は歴史上の実在の人物や出来事を物語に織り交ぜながら、自らを英雄的に、あるいは滑稽に演出します。
例えば、ボードリーノは自分が神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世の相談役であったと主張し、皇帝との親密な関係を誇らしげに語ります。しかし、歴史的事実と照らし合わせてみると、彼の物語には多くの矛盾点が見られます。
また、ボードリーノは自らを機知に富んだ人物として描き、数々の逸話を語りますが、それらの逸話もまた、彼の虚言癖や誇張癖を疑わせる要素を含んでいます。
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ボードリーノは、自身の虚言癖を自覚しつつも、それを正当化するような発言を繰り返します。
彼は、真実よりも面白い話を語ることを好み、「嘘は真実の影」であると主張します。また、物語を面白くするためには、多少の脚色は許されると考えている節もあります。
さらに、ボードリーノは、自らの虚言が他人を傷つけるものではないと主張し、むしろ人々に楽しみや希望を与えるものであると弁護します。
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ボードリーノの物語は、読者に真実と虚構の境界線について考えさせる契機を与えます。
読者は、ボードリーノの語る物語の真偽を疑いながらも、彼の巧みな話術に引き込まれていきます。そして、物語が進むにつれて、真実と虚構の境界線が曖昧になり、何が真実で何が虚構なのかを見分けることが困難になっていきます。
ボードリーノの物語は、歴史や文学における真実のあり方、そして物語を語るということの意味について、読者に深い問いを投げかけています。