## エンゲルスの空想から科学へに影響を与えた本
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チャールズ・ライエルの「地質学原理」
フリードリヒ・エンゲルスが、唯物論の歴史観を展開した「空想から科学へ」は、19世紀後半の社会主義思想に大きな影響を与えた著作として知られています。この著作でエンゲルスは、社会主義が空想的なユートピア思想ではなく、歴史の発展法則に基づいた科学的な理論であることを主張しました。そして、その根拠として、自然科学における唯物論的な発見、特にダーウィンの進化論と並んで、チャールズ・ライエルの「地質学原理」を挙げている点は大変興味深いと言えます。
チャールズ・ライエルは19世紀のイギリスの地質学者であり、「地質学原理」は、1830年から1833年にかけて全3巻で出版されました。この書は、当時の地質学の常識であった「天変地異説」を否定し、「斉一説」を唱えた画期的な著作でした。「天変地異説」は、過去の地球は現在とは全く異なる環境であり、大規模な天変地異によって現在の姿になったとする考え方です。一方、「斉一説」は、現在観測されるような地質現象が、長い時間をかけて少しずつ積み重なることで、地球の大きな変化が生み出されたとする考え方です。
ライエルは、「地質学原理」の中で、侵食、堆積、火山活動、地震など、現在も地球上で起こっている現象を観察し、それらが長い時間をかけてどのように地層を形成し、地形を変えていくのかを詳細に分析しました。そして、過去の地球にも同じ法則が働いていたと仮定することで、天変地異を持ち出さずに地球の歴史を説明できることを示しました。
エンゲルスは、「空想から科学へ」の中で、ライエルの「地質学原理」が、自然を歴史的に捉えることの重要性を示したと評価しています。ライエル以前は、自然は不変であるか、あるいは神による創造や天変地異といった超越的な力によって変化すると考えられていました。しかし、ライエルは、自然は絶えず変化し続けており、その変化は長い時間をかけてゆっくりと進行するということを、膨大な観察と実証的な分析によって明らかにしました。
エンゲルスは、ライエルのこの業績を高く評価し、社会の歴史もまた、自然と同様に、漸進的な発展と変化の過程として捉えるべきだと主張しました。社会主義は、空想的な理想ではなく、歴史の発展法則に基づいた科学的な必然として提示されるのです。
「地質学原理」は、ダーウィンの進化論にも大きな影響を与えたことで知られています。ダーウィンは、ビーグル号の航海中に「地質学原理」を読み込み、ライエルの斉一説から大きな影響を受けました。生物進化もまた、地球の歴史と同じく、長い時間をかけて少しずつ進行したという考え方は、ライエルの地質学から得た重要な視点でした。
エンゲルスは、「空想から科学へ」の中で、ダーウィンの進化論を取り上げ、生物の世界における歴史的な発展法則を明らかにしたと評価しています。そして、ライエルの地質学とダーウィンの進化論は、自然界における唯物論的歴史観の基礎を築き、社会主義の科学性を裏付けるものとして高く評価されたのです。