ウルフのオーランドーに匹敵する本
時間と性と愛と歴史の奔流に挑む傑作たち
バージニア・ウルフの『オーランドー』は、ジャンルを超越した傑作として、時間、性、愛、歴史という壮大なテーマを、詩情あふれる筆致で描き出す。 その独創的な構成と深遠なテーマ性において、他に類を見ない作品であるが、文学史を紐解けば、いくつかの名著が、それぞれの方法で、ウルフの探求と共鳴していることがわかる。
マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
プルーストの畢生の大作『失われた時を求めて』は、記憶と時間が織りなす人間の意識の深淵を、圧倒的な筆力で描き出す。 主人公の「私」が、過去の記憶をたどりながら、失われた時間を取り戻そうとする過程は、オーランドーが幾世紀にもわたる人生を経験する中で、自己と時間とを探求する姿と共鳴する。 また、プルーストが描く社会の虚飾や愛の幻想は、ウルフが『オーランドー』で風刺する社会規範や男女の役割にも通じるものがある。
ジェームズ・ジョイス『ユリシーズ』
ジョイスの『ユリシーズ』は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を下敷きに、ダブリンを舞台に繰り広げられる一日の出来事を、意識の流れの手法を用いて描き出す。 一見平凡な日常の中に、神話や歴史、哲学が織り込まれた複雑な構成は、『オーランドー』における時間と空間を自在に操る構成と共通する。 また、ジョイスが用いる多様な文体や言葉遊びは、ウルフの詩的な表現と実験的な文体に呼応する。
ガブリエル・ガルシア・マルケス『百年の孤独』
マルケスの代表作『百年の孤独』は、架空の町マコンドを舞台に、ブエンディア家七世代にわたる歴史を、神話や伝説、現実が交錯する独特の世界観で描き出す。 時間と歴史が循環する物語構造は、オーランドーが経験する時間の流れと歴史の変遷を想起させる。 また、ラテンアメリカの歴史と社会に対する批評的な視点は、ウルフがイギリス社会やジェンダー観に投げかける批評とも共鳴する。