ウェーバーのプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神に影響を与えた本
カルヴァンによる「キリスト教綱要」の影響
マックス・ウェーバーの代表作『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は、社会科学における古典として広く知られていますが、その考察の基盤には、先行する宗教改革、特にジャン・カルヴァンによる思想の影響が色濃く反映されています。中でも、カルヴァンが1536年に初めて出版し、その後生涯をかけて改訂を続けた神学書『キリスト教綱要』は、ウェーバーの議論に決定的な影響を与えたと言えるでしょう。
『キリスト教綱要』は、プロテスタント神学の基礎を築いた書物として知られており、人間の全面的堕落、予定説、神の絶対的主権といった概念を体系的に解説しています。ウェーバーは、これらの概念が、結果として西欧社会における資本主義の精神、特に禁欲的な労働倫理の形成に深く関わっていたと分析しました。
例えば、『綱要』で強調されている予定説は、神によってあらかじめ救済される者と滅ぼされる者が決定されているという思想であり、人間の努力や行いではそれを覆すことができないとするものです。ウェーバーはこの思想が、当時のプロテスタントの人々に強い不安と焦燥感を与えたと指摘します。彼らは、自らが神の恩寵を受けているかどうかを確信することができず、その不安を払拭するために、禁欲的な生活を送り、勤勉に働くことで、自らが選民であることの証を求めようとしたのです。
また、カルヴァンは『綱要』の中で、職業労働を神から与えられた使命、「召命」として捉え、勤勉に働くことを神への奉仕とみなしました。この労働観は、従来の労働に対する消極的な見方を覆し、経済活動に積極的な意味づけを与えるものでした。ウェーバーは、このようなプロテスタントの労働倫理が、資本主義発展の原動力となったと考えたのです。
もちろん、『キリスト教綱要』が直接的に資本主義を生み出したと断言することはできません。しかし、ウェーバーは、カルヴァンをはじめとする宗教改革者たちの思想が、人々の内面的な価値観や行動様式を大きく変容させ、結果として資本主義の精神風土を醸成する上で重要な役割を果たしたと論じたのです。