ウィルソンの社会生物学の面白さ
動物の行動から人間の社会性までを貫く壮大な試み
E.O. ウィルソン著「社会生物学」は、1975年の初版発行当時、生物学のみならず、心理学、社会学、人類学などの隣接分野に大きな波紋を呼びました。それは、動物の行動生態学の知見に基づいて、人間の社会行動や社会構造の進化までを説明しようとする壮大な試みだったからです。
包括適応度に基づく利他的行動の説明
本書の中心的な概念の一つに、「包括適応度」があります。これは、従来の進化論では説明が困難だった利他的行動を、遺伝子の視点から解き明かす画期的な概念です。ウィルソンは、血縁個体間で遺伝子が共有されていることに着目し、個体の繁殖成功だけでなく、血縁者の繁殖成功も合わせた「包括的な」遺伝子の伝達効率が進化の駆動力となると主張しました。
社会性昆虫の精緻な社会構造
本書のもう一つの魅力は、アリ、ハチ、シロアリといった社会性昆虫の驚異的な社会構造を、豊富な事例とともに解説している点です。これらの昆虫は、高度に分業化されたカースト制や、個体間の複雑なコミュニケーションシステムなど、まるで一つの生命体のような社会を形成しています。ウィルソンは、これらの社会構造が、進化史の中で自然選択によって形作られてきたことを、包括適応度の概念を用いて明快に説明しています。
人間行動への示唆と論争
本書の最終章では、人間の社会行動についても考察が及んでいます。ウィルソンは、人間の行動もまた、進化の産物であるという視点を提示し、攻撃性、性行動、親子関係、文化進化など、多岐にわたるテーマについて論じています。しかし、人間の行動を遺伝子還元的に解釈することには、当時から倫理的な問題や科学的根拠の不足を指摘する声も上がっており、現在もなお議論が続いています。
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