## イプセンのペール・ギュントと時間
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時間の流れの歪み
「ペール・ギュント」では、現実世界における時間の流れと、ペール・ギュントの内的世界における時間の流れが大きく乖離している点が特徴的です。
劇の冒頭と終盤では、故郷に残ったソールヴェイグの老いと、長い放浪の旅を終えてもなお若々しいペールの対比が鮮やかに描かれています。これは、ペールが自己中心的な欲望に突き動かされ、時間的・空間的に広範な放浪を続ける中で、故郷という閉ざされた世界で彼を待ち続けたソールヴェイグの時間の流れ方が大きく異なっていることを示しています。
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回想と現在
劇中には、ペールの過去を振り返る回想シーンが挿入され、時間軸が交錯します。
例えば、第1幕では、ペールの若き日の放蕩や、母オーセとの別れが描かれ、彼の性格形成に大きな影響を与えた出来事が明らかになります。これらの回想シーンは、現在のペールの行動や心理を理解するための重要な鍵となります。
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トロールの時間
ペールが迷い込むトロールの世界は、人間の時間概念を超越した異質な空間として描かれています。
トロールたちは、「時は金なり」という人間社会の価値観を否定し、刹那的な快楽や享楽に耽溺しています。ペールは、トロールの王の娘グリーンから「トロールの時間」への服従を迫られ、自己喪失の危機に直面します。
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「自己」の形成と時間
イプセンは、「ペール・ギュント」を通して、人間にとって「自己」を確立することの重要性を問いかけています。
ペールは、長い放浪の末、物質的な成功も、トロールの世界での享楽も、真の幸福には繋がらないことを悟ります。そして、自己欺瞞と向き合い、過去の罪と向き合った時に初めて、真の「自己」を見出すことができるのではないでしょうか。
劇中における時間の流れの歪みや交錯は、「自己」の形成というテーマと密接に関係していると言えます。