イシグロのわたしを離さないでに影響を与えた本
カズオ・イシグロ著「わたしを離さないで」に影響を与えた作品として、しばしば挙げられるのが、ウィリアム・ゴールディングの「蠅の王」です。
この小説は、無人島に漂着したイギリス人の少年たちが、文明社会から隔絶された環境の中で、次第に野蛮な本性に目覚めていく様子を描いた物語です。
両作品における共通点としてまず挙げられるのは、「閉鎖された空間における人間の残酷さ」というテーマでしょう。
「蠅の王」では無人島という極限状態に置かれた少年たちが、それぞれの欲求や恐怖に突き動かされるまま、次第に暴力や殺戮に手を染めていきます。一方、「わたしを離さないで」では、クローンとして生まれ、外界から隔離された施設で育てられたキャシーたちは、自分たちの運命を受け入れながらも、どこかで人間としての尊厳を求め、苦悩します。
また、「システムへの疑問」も両作品に共通する要素です。
「蠅の王」では、当初はルールや秩序を重んじていた少年たちが、次第にリーダーの独裁や集団心理に支配され、破滅へと向かっていく様子が描かれています。これは、文明社会のシステムや権力構造に対する痛烈な批判として解釈することができます。「わたしを離さないで」においても、クローンという存在を生み出した社会システムに対する疑問が、物語全体を貫く大きなテーマとなっています。キャシーたちは、自分たちが「臓器提供」という目的のために作られた存在であることを受け入れながらも、人間としての感情や権利を希求し、葛藤します。
さらに、「純粋さと残酷さの対比」も両作品の特徴です。
「蠅の王」では、少年たちの純粋な好奇心や冒険心が、次第に支配欲や暴力へと変質していく様子が描かれています。これは、人間の本質に対する根源的な問いを投げかけるものであり、読者に深い衝撃を与えます。「わたしを離さないで」においても、キャシーやその友人たちの純粋な友情や愛情が、クローンとして生きる運命の残酷さと対比されることで、より一層、読者の心を揺さぶります。
このように、「蠅の王」と「わたしを離さないで」は、テーマやモチーフにおいて多くの共通点を持つ作品です。どちらも、人間の心の奥底に潜む闇や、社会システムに対する根源的な問いを投げかけることで、読者に深い感動と衝撃を与え続けています。