## イシグロの『遠い山なみの光』と言語
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記憶と回想の言語
『遠い山なみの光』は、イギリスに移住した日本人女性、悦子の視点から語られます。物語は、彼女の現在の生活と、第二次世界大戦後の長崎での生活を回想する形で進行します。
イシグロは、回想という行為そのものを表現するために、独特の言語を用いています。 悦子の回想は断片的で、しばしば現在と過去が交錯し、読者は彼女が語る物語の全体像を掴みかねることがあります。 これは、記憶というものが曖昧で、時間の経過とともに変化していくものであることを反映しています。
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沈黙と暗示の言語
イシグロの作品の特徴の一つに、登場人物が重要な情報を明かさず、沈黙を守ったり、曖昧な表現を用いたりすることが挙げられます。『遠い山なみの光』においても、悦子と娘の直子、そして悦子の友人の禎子の間には、言葉にされない感情や過去の出来事が存在します。
例えば、禎子の娘である景子の自殺については、その理由が明確に語られることはありません。読者は、登場人物たちの会話や行動、そしてわずかな手がかりから、真実を推測するしかありません。
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異文化理解と誤解の言語
『遠い山なみの光』は、異なる文化圏におけるコミュニケーションの難しさを描いています。 悦子はイギリスでの生活に馴染もうと努力しますが、言葉の壁や文化の違いに直面します。
イシグロは、異文化理解の過程における微妙なニュアンスを、言葉の選択や登場人物たちの行動を通して表現しています。