## アーレントの全体主義の起源の話法
アーレントの論考における歴史叙述の役割
アーレントは、全体主義という前例のない現象を理解するために、伝統的な哲学的概念や方法論では不十分であると考え、歴史叙述に依拠しました。彼女は、全体主義の起源を特定のイデオロギーや指導者に還元するのではなく、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのヨーロッパ社会における様々な歴史的プロセスや出来事の交錯の中に位置づけようとしました。
全体主義への道筋としての反ユダヤ主義と帝国主義の分析
アーレントは、全体主義の台頭を準備した重要な要因として、反ユダヤ主義と帝国主義を挙げます。彼女は、反ユダヤ主義を単なる偏見ではなく、近代社会における国民国家の形成と深く結びついたイデオロギーとして分析しました。また、帝国主義は、ヨーロッパ列強が自国の国内問題を解消するために、植民地における暴力と支配によって「外部」を作り出したプロセスとして捉えられました。アーレントによれば、反ユダヤ主義と帝国主義は、全体主義体制における人種差別と世界支配の野望の先駆けとなるものでした。
大衆社会と孤独の概念
アーレントは、全体主義の台頭を理解する上で、大衆社会における個人の孤独と孤立という問題に注目しました。彼女は、近代化に伴う伝統的な社会秩序の崩壊と、大衆社会における匿名性や疎外感が、人々を孤独と無力感に陥れ、全体主義運動のイデオロギーに容易に魅了される状況を生み出したと主張しました。全体主義運動は、人々に帰属意識と目的意識を与え、孤独から救済してくれるかのように見えたのです。
全体主義のプロパガンダと現実の操作
アーレントは、全体主義体制の特徴として、プロパガンダによる大衆操作を挙げました。全体主義のプロパガンダは、理性的な議論や批判的思考を放棄させ、人々をイデオロギーに盲従させることを目的としていました。アーレントは、全体主義のプロパガンダが、絶え間ない虚偽と事実の歪曲を通じて、人々の現実認識を操作し、批判的精神を麻痺させると分析しました。
全体主義におけるテロルのシステム
アーレントは、全体主義体制を維持する上で、テロルが不可欠な要素であると論じました。全体主義におけるテロルは、単なる暴力ではなく、予測不可能性と恣意性によって人々を恐怖に陥れ、服従を強いるシステムとして機能しました。テロルの標的は、特定の集団だけでなく、社会全体に及び、人々を相互不信と密告に駆り立て、抵抗を不可能にしました。