## アーレントの全体主義の起源の主題
全体主義の現象の分析
ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』は、20世紀に台頭したナチズムとスターリニズムという、それまでの歴史に類を見ない新しいタイプの政治体制を分析したものです。アーレントはこの著作において、全体主義の現象を単なる政治体制の変化として捉えるのではなく、西洋文明の伝統と近代社会の危機がもたらした、より根深い問題として考察しています。
全体主義の要素
アーレントは、全体主義の主要な要素として、以下の３つを挙げ、それぞれの起源と相互作用を詳細に分析しています。
* **反ユダヤ主義**: アーレントは、反ユダヤ主義を単なる人種差別ではなく、近代国家の形成と国民国家のアイデンティティの危機に深く根ざしたイデオロギーとして捉えています。彼女は、19世紀後半のヨーロッパにおける反ユダヤ主義の台頭を、国民国家の統合と排除の論理、そして資本主義の進展に伴う社会不安と結びつけて分析しています。
* **帝国主義**: アーレントは、帝国主義を、ヨーロッパにおける全体主義の台頭を準備した重要な要因と見なしています。彼女は、帝国主義の膨張主義と人種差別的な支配構造が、ヨーロッパ社会に暴力と支配の論理を蔓延させ、それが後の全体主義体制における暴力と支配の正当化に利用されたと主張しています。
* **大衆社会**: アーレントは、近代社会における大衆化現象、すなわち伝統的な社会の崩壊と原子化によって、孤立し、政治的に無力化した大衆の存在が、全体主義の台頭を容易にしたと主張しています。彼女は、全体主義運動が、プロパガンダと大衆動員を通じて、この孤立した大衆を政治的に動員し、その支持基盤を築いたと分析しています。
全体主義の特徴
アーレントは、全体主義を単なる独裁政権とは異なる、以下のような特徴を持つ新しいタイプの政治体制として描いています。
* **イデオロギー**: 全体主義は、現実の社会や人間の行動を無視した、包括的で排他的なイデオロギーに基づいています。このイデオロギーは、歴史や社会の法則を規定し、人々の思考や行動を完全に支配することを目指します。
* **テロル**: 全体主義は、恐怖と暴力によって支配を維持します。テロルの対象は、特定の敵対勢力だけでなく、社会全体に及び、人々を相互不信と密告に陥れることで、体制への抵抗を不可能にします。
* **全体性の追求**: 全体主義は、社会のあらゆる側面を統制下に置こうとします。政治、経済、文化、教育、個人の私生活に至るまで、体制のイデオロギーに沿って管理され、個人の自由や自律性は完全に否定されます。
アーレントの『全体主義の起源』は、全体主義の台頭を歴史的、政治的、社会的な文脈の中で捉え、その構造とメカニズムを解明しようとした画期的な著作です。