## アリストテレスの詩学の表現
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表現とは
アリストテレスは、『詩学』の中で、悲劇を構成する要素として、筋、性格、思想、言葉遣い、音楽、そして表現を挙げています。 表現はギリシャ語で λέξις (lexis) と呼ばれ、単語の選択や文体の構成といった、言語表現に関する側面を指します。 アリストテレスは表現について独立した章を設けていませんが、他の要素と関連付けながら、その重要性を説いています。
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明瞭さと華麗さ
アリストテレスは、表現において最も重要なのは「明瞭さ」であると述べています。 詩の目的は、聞き手や読者に何かを理解させ、感情を喚起することですが、そのためにはまず、作品の意図が明確に伝わる必要があるからです。 ただし、明瞭さだけを追求すれば良いというわけではありません。 アリストテレスは、「卑俗にならない範囲で、できる限り華麗であるべき」とも述べており、表現にはある程度の美しさや格調高さも求められます。
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メタファーの重要性
アリストテレスは、華麗さを達成するための手段として、「メタファー(隠喩)」を高く評価しています。 メタファーは、本来の意味とは異なる事物に、ある種の類似性を見出して表現する技法であり、詩に新鮮さや力強さを与えます。 また、メタファーを用いることによって、抽象的な概念を具体的なイメージとして表現することも可能になります。
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文体と性格の一致
アリストテレスは、表現は作品全体と調和していなければならないと強調しています。 特に、登場人物の性格と文体の一致は重要です。 例えば、高貴な人物には格調高い言葉遣いを、卑しい人物には粗野な言葉遣いを割り当てることによって、登場人物の個性を際立たせることができます。 逆に、文体と性格が一致していない場合は、作品のリアリティが損なわれてしまいます。