アリストテレスの自然学の思想的背景
### 自然哲学の伝統
アリストテレスの自然学は、古代ギリシャにおける自然哲学の伝統の中で生まれました。この伝統は、ミレトス学派のタレス、アナクシマンドロス、アナクシメネスに始まり、彼らは自然現象を神話的な説明ではなく、理性的な説明によって理解しようとしました。彼らに続く哲学者たちは、万物の根源（アルケー）や、変化や運動の原理について様々な説を唱えました。
### プラトンの影響
アリストテレスの自然学は、彼の師であるプラトンの影響を強く受けています。プラトンは、感覚によって認識されるこの現実世界は、イデアという真の実在を模倣した影に過ぎないと考えました。彼は、真の知識はイデアについての知識であるとし、自然探求の重要性を軽視していました。
アリストテレスはプラトンのイデア論を批判し、この現実世界こそが認識の対象であり、自然探求は重要な哲学的営みであると主張しました。しかし、彼はプラトンの影響を受け、自然現象の中に秩序や目的を見出そうとしました。
### エンペドクレスとデモクリトスの影響
アリストテレスは、エンペドクレスの四元素説（土、水、空気、火）と、デモクリトスの原子論からも影響を受けています。彼は、エンペドクレスの四元素を物質の構成要素として採用し、それぞれの元素に固有の性質（熱・冷、湿・乾）を attributedしました。
また、彼はデモクリトスの原子論を完全に受け入れたわけではありませんが、物質が無限に分割できるという考えを否定し、最小単位としての原子を想定しました。ただし、アリストテレスの原子は、デモクリトスの原子のように質量や形状を持った粒子ではなく、質料と形相の結合体として捉えられました。