アリストテレスの自然学の主題
自然学における「自然」とは何か?
アリストテレスにとって、「自然学」とは、φύσις (ピュシス, physis) 、すなわち「自然」を持つものについての学問でした。「自然」を持つものとは、 **それ自身のうちに運動と変化の原理を持つもの** と定義されます。石ころや植物、動物だけでなく、それらを構成する元素や天体もまた、それぞれ固有の「自然」を持つものとして、アリストテレス自然学の考察対象となりました。
四原因説と形相因
アリストテレスは、自然物の変化を理解するために、 **四原因説** を提示しました。
* **質料因**: 変化するものが何からできているか、その素材や材料。
* **形相因**: 変化するものが何になろうとしているのか、その形や性質。
* **作用因**: 変化を引き起こす外的要因、つまり原因。
* **目的因**: 変化の目標、何のために変化するのか。
アリストテレスは、特に **形相因** を重視しました。形相因は、単なる形ではなく、事物の **本質** や **機能** をも意味します。例えば、種子にとっての「成長」は、その形相が内包する可能性を実現する運動であり、「成熟した植物」という形相へと向かう変化です。
運動と変化
アリストテレスは、運動を「 **可能性から現実性への移行** 」と捉えました。変化前の状態は可能性であり、変化後の状態は現実性です。そして、この運動を引き起こすのは、各々の事物に内在する **形相** です。
質料と形相の相互依存
アリストテレスは、質料と形相を **不可分な関係** と捉えました。質料は形相なしに存在できず、形相もまた、質料なしには現実化できません。両者は、事物という一つの存在を構成する、相互依存的な二つの側面といえます。
天体の運動
アリストテレスは、天体の運動を説明するために、地球を中心とした **同心円状の天球説** を採用しました。彼は、天体は **エーテル** と呼ばれる不変で永遠の物質で構成され、その運動は完全な円運動であるとしました。これは、天上界と地上界を区別し、それぞれに異なる運動原理を適用した結果でした。
生物学への影響
アリストテレスは、膨大な数の生物を観察し、その形態、習性、発生などを詳細に記録しました。彼は、生物を **無生物から植物、動物へと至る連続的な階梯** として捉え、それぞれの段階で、より複雑な機能と能力が現れると考えました。
以上が、アリストテレスの自然学における主要なテーマです。彼の自然哲学は、古代ギリシャにおける自然観を体系化したものであり、後世の科学思想に多大な影響を与えました。