## アリストテレスの弁論術の対極
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ソクラテスの対話篇における問答法
ソクラテスの思想は、プラトンやクセノポンなどの著作を通じて今日に伝わっていますが、彼自身の著作は残されていません。ソクラテスの特徴的な点は、断定的な結論を主張するのではなく、対話を通じて相手の無知を自覚させ、真の知識へと導こうとした点にあります。
アリストテレスの弁論術が、雄弁な語りによって聴衆を説得することを目的とする一方、ソクラテスの問答法は、自らの無知を告白し、相手との対話を通じて真理に近づこうとするものでした。ソクラテスは、巧みなレトリックを用いて相手を説得することよりも、問答を通じて相手自身の内面に眠る真理を引き出すことに重きを置いていました。
彼の用いた問答法は、
* まず、比較的簡単な質問を投げかけることから始まり、
* 相手の回答に応じて、さらに深く掘り下げた質問をしていきます。
* そして、最終的には相手自身が矛盾に気づき、自らの無知を自覚するに至るのです。
ソクラテスの問答法は、アリストテレスの弁論術のように、体系化された技術や理論として確立されたものではありません。しかし、彼の対話を通して、私たちは、真の知識とは何か、どのようにして真理に近づけるのか、といった哲学的な問いについて深く考えさせられるのです。
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ニーチェの力への意志
ニーチェは、西洋哲学の伝統、特にその根底にあるプラトン主義やキリスト教的価値観を批判的に捉えていました。彼は、これらの思想が弱者の道徳を説き、人間の力への意志を否定してきたと主張しました。
ニーチェにとって、アリストテレスの弁論術は、ロゴス中心主義、すなわち言語や論理によって真理を捉えようとする西洋哲学の伝統に位置づけられるものです。彼は、弁論術が、客観的な真理や普遍的な価値観を前提としている点で、力への意志を阻害するものだと考えたのです。
ニーチェの力への意志は、絶えず自己を超越し、創造していく生の力動性を肯定する思想です。彼は、人間は固定された本質を持たず、絶えず変化し続ける存在であると捉え、既存の価値観にとらわれず、自らの力で新たな価値を創造していくことを求めます。
ニーチェは、力への意志を体現した超人という理想像を提示しました。超人は、既成の道徳や価値観を乗り越え、自らの力で新たな価値を創造する存在です。彼は、アリストテレス的な弁論術のように、既存の論理や言語に頼るのではなく、自らの生の力強さによって世界を解釈し、創造していくことを主張したのです。