## アリストテレスの天体論に匹敵する本
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プトレマイオスの「アルマゲスト」
古代ギリシャの天文学者クラウディオス・プトレマイオスが2世紀半ばに書いた天文学の専門書です。原題はギリシャ語で「Μαθηματικὴ Σύνταξις」( Mathematike Syntaxis、「数学集成」の意)、アラビア語圏では「كتاب المجسطي」(Kitāb al-Majisṭī,「偉大なる書」の意)と呼ばれ、このアラビア語名がラテン語に訳され「Almagestum」となり、現在の「アルマゲスト」という名で知られるようになりました。
本書は、地球中心説(天動説)に基づいた宇宙像を体系的に説明しており、古代ギリシャの天文学を集大成しただけでなく、その後約1400年にわたって西洋やイスラム世界における天文学の標準的な教科書として用いられました。アリストテレスの宇宙観を継承しつつ、独自の観測データと数学的理論に基づいて、より精緻で複雑な天体モデルを構築しました。
「アルマゲスト」は全13巻からなり、恒星の位置や明るさ、太陽、月、惑星の運動、日食や月食の予測方法など、幅広いテーマを網羅しています。特に重要なのは、惑星の複雑な運動を説明するために導入された「エカント」や「周転円」といった概念です。これらの概念は、地球中心説の枠組みの中で、観測結果と理論を整合させるために考案されたものであり、その後の天文学の発展に大きな影響を与えました。
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コペルニクスの「天球の回転について」
ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスが1543年に出版した天文学の専門書です。原題はラテン語で「De Revolutionibus Orbium Coelestium」(天球の回転について)です。本書は、それまで1000年以上も信じられてきたプトレマイオスの地球中心説(天動説)を覆し、太陽中心説(地動説)を提唱した画期的な著作として知られています。
コペルニクスは、太陽を中心に地球や他の惑星が円軌道を描いて公転していると仮定することで、プトレマイオスの体系よりもシンプルかつ美しく、惑星の運動を説明できると主張しました。また、地球の自転と公転によって、恒星の年周視差や惑星の逆行運動といった現象を説明できることを示しました。
「天球の回転について」は、出版当初は大きな反響を呼びませんでした。しかし、その後、ガリレオ・ガリレイやヨハネス・ケプラーといった天文学者たちによって支持され、観測データの蓄積と理論の精緻化が進められる中で、徐々に受け入れられていきました。そして、17世紀後半にアイザック・ニュートンが万有引力の法則を発見し、太陽中心説を物理的に説明できるようになったことで、最終的に地動説が確立しました。