『タイピー(Typee)』は、ハーマン・メルヴィルによって書かれた半自伝的な小説で、1846年に初版が出版されました。当時の読者にエキゾチックな世界観と冒険譚を提供し、メルヴィルの作家としての評価を確固たるものにしました。
この作品は、メルヴィル自身の体験が基になっています。彼は若き日に捕鯨船に乗り組み、南太平洋を航海していましたが、船の厳しい生活から逃れるため、友人と共にマルケサス諸島にあるヌクヒバ島で脱走します。物語は、主人公がタイピーと呼ばれる原住民の村に辿り着くところから始まります。彼はそこでの生活を通じて、原住民の文化、習俗、そして彼らとの友情について学びますが、同時に彼らが人食いの風習を持つ部族であるという恐怖と戦わなければなりません。
『タイピー』は、原住民の生活を理想化し、西洋文明の価値観に疑問を投げかける内容となっています。メルヴィルはこの地での経験をもとに、人間性、自由、文化の相対性といったテーマを探求しています。同時に、19世紀の欧米社会における帝国主義や植民地主義に対する批判的な視点も提供しています。
『タイピー』は、メルヴィルが『白鯨』を書く前の作品であり、彼の文学キャリアの初期に位置づけられます。この本は発売当初から大きな成功を収め、メルヴィルを一躍有名にしました。その鮮やかな描写と冒険譚は、今日でも多くの読者を魅了し続けています。