『フィヒテの全知識学の基礎』は、ドイツ観念論の哲学者ヨハン・ゴットリープ・フィヒテの代表作の一つです。この著作は、哲学の新たな地平を開き、自己意識の役割と構造を中心に据えた哲学体系の展開を目指しています。フィヒテは、カントの批判哲学を出発点としつつも、それをさらに推し進め、主体性と客体性の関係を根本から問い直します。
本書は、主に「自我」の活動を通じて世界がどのように構成されるのかを探求することに焦点を当てています。フィヒテは、自我が自己と対象との差異を自己内に設定することによってのみ、知識を可能にすると考えました。この過程は、自我が自己自身を限定することで他者や物質的世界を認識するという「自己規定」の過程として描かれます。
フィヒテは、哲学の究極の目的を、自我の絶対性の証明に置きます。彼にとって、全ての実在はこの自我の活動に基づいているということが、知識の最終的な基盤となります。『全知識学の基礎』では、このような思想を体系的に展開し、個々の知識や経験がどのようにして全体のシステムに組み込まれるかを論じています。
この書籍は、哲学史上における主観性の問題への深い洞察を提供し、後の哲学者たち、特にドイツ観念論や現象学に影響を与えました。フィヒテの思想は、自己認識のプロセスを通じて絶対的な真理に到達しようとする試みとして理解され、哲学における主観性と客観性の関係を根本的に再考する道を開いたのです。