『ゲルマニア』は、古代ローマの歴史家タキトゥスによって紀元98年頃に書かれた著作で、正式には『ゲルマニアについての覚え書き』とも呼ばれます。この文献は、古代ゲルマン民族の風俗、社会構造、部族間の関係、そして彼らの生活様式に関する貴重な情報源です。
タキトゥスは、ローマ帝国の外側に住むゲルマン民族についての詳細な記述を行っており、彼の目的は部分的にはローマの市民にゲルマン人の野蛮と見なされがちな生活を紹介することにありました。しかし、それと同時に、タキトゥスはゲルマン人の社会が持つ純粋さや道徳的価値を賞賛し、比較的堕落したと見なされたローマ社会に対する批判的な鏡としてこれらを提示しています。
『ゲルマニア』は全28章から成り、ゲルマン人の起源、地理、民族、風俗、宗教、支配形態など幅広いトピックをカバーしています。タキトゥスは彼らの戦闘技術、家族生活、部族制度などにも触れ、ゲルマン人が個々の自由と部族の共同体を重視する文化を持っていることを強調しています。
この文献は、古代の民族や文化に関する理解を深める上で非常に貴重な資料であり、特にゲルマン民族に関する知識の多くがこの書から得られています。しかし、タキトゥスが実際にゲルマニアを訪れたかどうか、また彼の記述がどの程度正確であるかについては議論があります。それにもかかわらず、『ゲルマニア』は古代ヨーロッパの民族と文化に関する学術研究において不可欠な作品として位置づけられています。