一般言語学講義

『一般言語学講義』は、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールによって生み出された言語学の基礎理論を集約した作品ですが、実はソシュール自身によって書かれたものではありません。この書籍の内容は、ソシュールがジュネーヴ大学で行った講義を、彼の学生たちがメモしたものを基に編纂されました。1916年に初版が出版されて以来、言語学はもちろんのこと、文学理論、哲学、心理学、社会科学など幅広い分野に影響を与えています。

ソシュールの言語学の核心は、「言語（ラング）」と「言語使用（パロール）」の区別にあります。彼は、言語を社会的な制度として捉え、そのシステム内での個々の要素がどのように機能するかに焦点を当てました。また、意味は単語そのものに内在しているのではなく、言語システムにおける差異によって生じるという「差異による価値」の概念を提唱しました。この観点から、言語は単にコミュニケーションの手段ではなく、意味を生み出すシステムとして理解されます。

本書は、言語学のみならず、セミオティクス（記号学）の発展にも大きな影響を与えました。ソシュールの提唱する「記号」とは、意味を持つ形態（シニフィアン）とその意味内容（シニフィエ）との関係性に基づく概念であり、これが後の構造主義やポスト構造主義の理論において重要な役割を担うことになります。

『一般言語学講義』は、言語学の歴史における画期的な著作として、今日でも学術的な研究や教育の場で広く読まれています。ソシュールの洞察力に満ちたこのテキストは、言語とは何か、そして人間が言語を通じてどのように世界を理解し、構築していくのかという根本的な問いに挑み続けています。