定義
借りの感覚は、好き嫌いより強く、ほぼ自動で発動する。
スーパーの試食を受け取ると、買うつもりのなかった一袋がかごに入っている。飲み物を一本おごられた人は、おごられなかった人のおよそ二倍、くじ付きの券を買ったという実験もあります。受け取った瞬間に心の帳簿が開き、お返しをするまで落ち着かない。この心の働きが返報性です。
人の暮らしは、貸し借りの網で支えられてきました。受け取った者は返すという約束を破る人には「恩知らず」の札が貼られるため、借りの感覚はほぼ自動で発動します。しかも、頼んでいなくても、小さな貸しでも、嫌いな相手からでも効く。この三つの癖が、商売に効く理由であり、悪用が絶えない理由です。
使い方の原則は一つ、求める前に先に与えること。ただし与えた直後に返しを迫ると、贈り物は取引に変わって効き目が消えます。守る側は、断りにくさを感じたら「商品ではなく借りの感覚に反応している」と名前を付け、親切には善意で返し、買わせるための仕掛けは心の帳簿から外して構いません。
この概念の論点
14節- 試食の一口は、なぜ素通りできないのか
- 返報性とは何か——借りは、好き嫌いより強い
- なぜ人間の標準装備なのか
- 強さの三つの癖
- 断らせることも、貸しになる——譲歩の返報性
- 商売の正攻法①——求める前に、先に与える
- 商売の正攻法②——効くのは金額ではなく、一手間
- 正攻法と操りの線——断る自由は残っているか
- 守り方①——断りにくさに、名前を付ける
- 守り方②——親切と仕掛けを、仕分ける
- 職場と家庭の、見えない貸借
- 返報性の、よくある間違い
- 明日、やる三つのこと
- まるごと実践——あるパン屋の一週間