『ボードリーノ』は、イタリアの著名な博学者であり作家、ウンベルト・エーコによって1980年に発表された歴史小説です。中世のヨーロッパと中東を舞台に、若き修道士ボードリーノの冒険を描いています。この小説は、当時の宗教的、哲学的、そして歴史的背景を巧みに織り交ぜながら、主人公が伝説的な土地を探索する過程を描いています。
物語は、12世紀のコンスタンティノープルから始まります。ボードリーノは、その知識欲と好奇心から、キリスト教の聖遺物を巡る旅に出ます。旅の途中で、彼はさまざまな伝説の地、例えば地上の楽園やブレンダンの島などを訪れ、神話上の生物や異教徒、異文化と交流します。彼の旅は、彼自身と読者にとって、知識への探求というテーマを深く掘り下げるものとなります。
エーコは『ボードリーノ』を通じて、中世の思想、信仰、そして文化の複雑さを鮮やかに描き出しています。彼の細やかな歴史的記述と豊かな想像力は、読者をその時代へと引き込みます。また、この作品は、真実と虚構、知識と信仰の境界についての哲学的な問いを提起し、エーコの他の作品同様、深い思索を促します。
『ボードリーノ』は、ウンベルト・エーコが持ち味とする教養と洞察を反映した作品であり、歴史小説としてだけでなく、中世への洞察を深める学術的な読み物としても価値があります。登場する架空の地や生物、奇妙な遭遇は、中世の神話や伝説への理解を深めると同時に、読者の想像力をかきたてます。