## ドストエフスキーの悪霊の表象
### 表象1：登場人物の内的葛藤
ドストエフスキーは、「悪霊」において、登場人物たちの内面に潜む「悪霊」を、彼らの心理描写を通して鮮やかに描き出しています。特に、主人公の一人であるスタヴローギンは、ニヒリズムや虚無主義に囚われ、自らの存在意義を見出せない苦悩を抱えています。彼の内面では、善と悪、信仰と無神論、愛と憎しみといった相反する価値観が激しくせめぎ合い、それが彼の言動の不安定さ、矛盾、そして最終的な破滅へと繋がっていきます。
その他にも、キリーロフ、シャートフ、ピョートル・ヴェルホヴェンスキーといった登場人物たちもまた、それぞれの「悪霊」に苦しめられる様子が描かれています。彼らの苦悩は、当時のロシア社会が抱えていた思想的混乱や、人間の根源的な弱さ、罪の意識などを象徴的に表していると言えるでしょう。
### 表象2：社会における「悪霊」の蔓延
ドストエフスキーは、登場人物たちの内面だけでなく、当時のロシア社会全体にも「悪霊」が蔓延していると捉えていました。作中では、革命思想や無政府主義といった過激な思想が、若者を中心に広まっていく様子が描かれています。これらの思想は、伝統的な価値観や道徳を破壊し、社会に混乱と暴力を引き起こす「悪霊」として描かれています。
また、作中には、様々な形で「群衆」が登場しますが、ドストエフスキーは、群衆心理が個人の理性や道徳を麻痺させ、「悪霊」的な行動を誘発すると考えていました。登場人物たちは、群衆の中で個性を失い、「悪霊」に操られるように、過激な思想や行動に流されていく様子が描かれています。