## ハロッドの動態経済学序説の価値
経済成長理論の先駆的な役割
1939年に出版された「動態経済学序説」は、古典派経済学が均衡状態を重視していたのに対し、時間軸を導入し、経済成長の動学分析を試みた点で画期的でした。当時の経済学界は、ケインズが「一般理論」で提示した短期の失業問題に注目を集めていました。しかし、ハロッドは短期的な問題を超えて、長期的な経済成長のメカニズムを解明しようとしたのです。
「保証成長経路」の概念
本書の中心的な概念は、「保証成長経路」です。これは、完全雇用を維持しながら経済が成長していくための理想的な経路を示しています。ハロッドは、貯蓄率、資本係数、人口増加率などの要素が、この保証成長経路を決定すると論じました。もし経済がこの経路から逸脱すると、慢性的なインフレーションやデフレーションが発生し、経済が不安定化すると彼は警告しました。
経済政策への示唆
ハロッドの分析は、経済政策、特に財政政策の重要性を強調しました。彼は、政府が支出や税制を通じて貯蓄率を調整することで、経済を保証成長経路に導くことができると主張しました。この考え方は、後のケインズ経済学における財政政策の理論的根拠を提供するものでした。
後世の経済学者への影響
「動態経済学序説」は、その後の経済成長理論の発展に多大な影響を与えました。特に、ソローやドーマーなど、新古典派成長理論を代表する経済学者たちは、ハロッドの分析を発展させ、現代経済学の重要な支柱を築きました。
限界
「動態経済学序説」は革新的な著作でしたが、限界もありました。例えば、技術進歩の影響を十分に考慮していない点や、モデルが単純化されすぎているという批判もあります。