## ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題の思索
ハーバーマスが問題とする「正当化」とは何か
ハーバーマスにとって、現代社会における**正当化**の問題は、権力や支配の行使が、人々の自由で平等な合意に基づいてどのように正当化されるのかという問題に他なりません。近代以前の社会では、伝統や宗教が支配の正当化の根拠となっていましたが、近代社会においては、人々が自らの理性に基づいて社会秩序を構築するという啓蒙主義の理念が前提とされます。
後期資本主義における正当化の危機
ハーバーマスは、後期資本主義社会においては、経済システムの自己増殖的な論理が、政治や文化といった他の社会領域を侵食し、人々の自律的な意思決定を阻害していると批判しました。具体的には、市場メカニズムや官僚主義の浸透により、人々の価値観や生活様式が均質化され、真の意味でのコミュニケーションが阻害されることで、民主主義的な意思決定のプロセスが形骸化していくという問題意識を持っていたと言えるでしょう。
コミュニケーション的行為としての正当化
このような危機に対してハーバーマスは、**コミュニケーション的理性**という概念を提示し、人々が対等な立場から自由な対話を通じて合意形成を図ることの重要性を強調しました。これは、単なる多数派による意思決定ではなく、あらゆる参加者の意見や利益が尊重され、相互理解に基づいた合意形成を目指すプロセスを指します。
システムと生活世界の緊張関係
ハーバーマスは、後期資本主義社会を**システム**と**生活世界**という二つの領域から分析しました。システムとは、経済や政治といった機能的に分化した社会システムを指し、効率性や合理性を重視するあまり、人々の価値観や生活様式を無視する傾向があります。一方、生活世界とは、家族や友人関係、地域社会など、人々が日常生活を送る場を指し、そこでは相互理解や共感に基づいたコミュニケーションが重視されます。
正当化の再構築に向けて
ハーバーマスは、後期資本主義社会における正当化の危機を克服するためには、システムの論理が生活世界を侵食することを防ぎ、コミュニケーション的理性を基盤とした公共圏を再構築することが必要であると主張しました。これにより、人々は自らの生活や社会のあり方について、対等な立場から議論し、合意形成を図ることが可能となると考えました。