## カミュの異邦人の選択
ムルソーの選択：太陽と殺人の意味
アルベール・カミュの代表作『異邦人』は、主人公ムルソーの視点を通して、人間の存在の不条理さを描き出した作品です。ムルソーは、母親の死に対する態度、マリーとの関係、そしてアラブ人殺害とその後の裁判における態度など、一貫して社会の常識や価値観から逸脱した行動をとります。彼の選択は、読者に「人間とは何か」「生きる意味とは何か」という根源的な問いを突きつけます。
まず、ムルソーは母親の死に対して、悲しみや喪失感といった一般的な感情を抱きません。彼は葬儀の間も淡々とした様子で過ごし、むしろ太陽の光や暑さといった物理的な感覚に気を取られています。この「太陽」は、作中で繰り返し登場する重要なモチーフであり、ムルソーの感覚的な生き方を象徴しています。彼は、社会通念上の「正しい」感情よりも、自身の感覚的な体験を重視するのです。
次に、マリーとの関係においても、ムルソーは社会的な常識にとらわれない選択をします。マリーから結婚の意思を確認された際、彼は「どちらでもいい」と答え、結婚に対して特別な感情を抱いていません。しかし、マリーとの肉体的関係や、彼女と過ごす時間には喜びを感じており、ここでも自身の感覚を優先する様子が伺えます。
そして、物語のクライマックスであるアラブ人殺害は、ムルソーの選択が取り返しのつかない結果をもたらす劇的な場面です。太陽の光と暑さの中で、彼はアラブ人を射殺しますが、その動機は明確に説明されません。裁判では、この動機不明瞭さがムルソーに不利に働きます。彼は殺人の罪よりも、母親の葬儀での態度やマリーとの関係など、社会規範から逸脱した行動を咎められ、死刑を宣告されます。
このように、ムルソーの選択は、社会の常識や価値観とは相容れないものであり、それが彼を「異邦人」として浮き彫りにします。彼の行動は、読者に「絶対的な価値観」や「生きる意味」といったものを問い直させ、人間の存在の不条理さを突きつけるのです。