ヤーコブソンの言語学と詩学の発想
言語の詩的機能
ロシア・フォルマリズムから構造主義言語学へと研究を進めたローマン・ヤーコブソンは、1960年に発表した論文「言語学と詩学との結びつき」の中で、文学作品を分析する上で有効な枠組みとして、言語の六つの機能を提示しました。
ヤーコブソンは、言語の機能を、それぞれに対応する言語活動の要素と結びつけました。
* **指示的機能**: 文脈
* **表現的功能**: 話者
* **美的機能**: メッセージ
* **交話的功能**: 接触
* **メタ言語機能**: コード
* **詩的機能**: メッセージ
これらの機能のうち、ヤーコブソンが特に重視したのが「詩的機能」です。詩的機能とは、言語表現がそれ自体に注意を向けさせる働きを指します。つまり、伝えたい内容を伝えるという言語本来の機能を超えて、音やリズム、言葉の組み合わせ方など、表現そのものを楽しむことを促す働きです。
詩的機能の働き
ヤーコブソンによれば、詩的機能は言語の二つの軸、「選択の軸」と「結合の軸」に沿って作用します。
* **選択の軸**: ある表現を選択する際に、同義語や類義語など、複数の選択肢の中から最適なものを選ぶことを指します。
* **結合の軸**: 選択された表現を、文法規則や意味的な繋がりなどに従って、適切な順序で組み合わせることを指します。
詩的機能は、これらの軸に沿って、言語表現に様々な工夫を凝らすことで、メッセージをより効果的に伝える役割を果たします。例えば、比喩や韻律、反復などの修辞技法は、詩的機能を高めるための代表的な方法です。
文学作品における詩的機能
ヤーコブソンは、文学作品、特に詩作品においては、詩的機能が最も重要な役割を果たすと考えました。詩作品では、言語が本来の伝達機能を超えて、音やリズム、イメージなどを駆使することで、読者に独特の美的体験を与えることを目指しています。
彼の提唱した言語の六つの機能と詩的機能の概念は、その後の文学理論や記号論に大きな影響を与え、文学作品を分析する上での重要な視点の一つとなっています。