## ピレンヌのベルギー史と人間
アンリ・ピレンヌと彼の代表作
アンリ・ピレンヌ（1862-1935）は、ベルギーを代表する歴史家の一人です。彼は、中世ヨーロッパ、特に経済史と都市史の分野において大きな功績を残しました。彼の代表作である『ベルギー史』（Histoire de Belgique）は、7巻にも及ぶ大著であり、古代から第一次世界大戦までのベルギーの歴史を網羅的に扱っています。
『ベルギー史』の内容と特徴
ピレンヌは、『ベルギー史』において、ベルギーという国家の形成と発展を、政治、経済、社会、文化など多角的な視点から分析しています。彼は、伝統的な政治史中心の歴史叙述を批判し、経済的要因や社会構造の変化に注目することで、ベルギー史に新たな光を当てました。
特に、ピレンヌは、フランク王国崩壊後の西ヨーロッパにおけるイスラム勢力の進出と、それによる地中海貿易の衰退が、西ヨーロッパ社会に大きな変化をもたらしたと主張しました。彼は、この変化を「ピレンヌ・テーゼ」として提唱し、後の歴史学研究に大きな影響を与えました。
人間としてのピレンヌ
ピレンヌは、学問的な業績だけでなく、人間としても魅力的な人物でした。彼は、第一次世界大戦中にドイツに占領されたベルギーにおいて、抵抗運動に積極的に参加しました。その結果、彼はドイツ軍に逮捕され、収容所生活を送ることになります。しかし、彼は、この過酷な経験の中でも学問への情熱を失わず、収容所内で講義を行うなど、周囲の人々に希望を与え続けました。
戦後、ピレンヌは、ベルギーの英雄として讃えられ、大学に復帰しました。彼は、晩年まで精力的に研究活動を行い、多くの著作を残しました。ピレンヌの学問に対する真摯な姿勢と、困難に立ち向かう勇気は、現在でも多くの人々に尊敬されています。