プリゴジンの「混沌からの秩序」からの学び
非平衡系における自己組織化
プリゴジンの業績で最も重要な点は、非平衡状態にある系が、自発的に秩序構造を形成しうることを示したことであると言えるでしょう。
従来の熱力学では、系はエントロピー増大の法則に従って、秩序から無秩序へと変化すると考えられてきました。
しかしプリゴジンは、エネルギーや物質の出入りが外部と絶えず行われる「開放系」においては、
系が非平衡状態であっても、むしろその非平衡状態を駆動力として自己組織化が起こり、
新たな秩序構造が形成されることを明らかにしました。
散逸構造
プリゴジンは、このような非平衡状態において自己組織化によって生じる秩序構造を「散逸構造」と名付けました。
散逸構造は、エネルギーの散逸と共役して形成・維持される動的な秩序構造であり、
生命現象を含む、自然界の様々な階層において観察されます。
例えば、ベナール対流やベロウソフ・ジャボチンスキー反応といった化学反応系、
生物の形態形成、生態系、さらには地球全体の気候システムなども、散逸構造として理解することができます。
分岐とゆらぎ
プリゴジンは、非平衡状態にある系が秩序構造へと移行する過程において、
「分岐」と「ゆらぎ」が重要な役割を果たすことを指摘しました。
系のパラメータが変化していくと、ある critical point において系は不安定化し、複数の分岐が生じます。
この分岐点において、系はどの分岐を選択するかは、
外部からのランダムなゆらぎの影響を受けることになります。
つまり、非平衡状態における自己組織化は、
決定論的な法則だけでは予測できない、
偶然性と必然性が複雑に絡み合ったプロセスであると言えるでしょう。
プリゴジンの研究は、
従来の平衡状態を中心とした熱力学の枠組みを超え、
非平衡状態における秩序形成という、
新たなパラダイムを提示しました。
これは、物理学、化学、生物学といった自然科学分野だけでなく、
経済学や社会学といった人文社会科学分野にも大きな影響を与え、
複雑系科学の発展にも大きく貢献しています。