## ラシーヌのフェードルの美
古典主義の美学を体現する作品
ラシーヌの『フェードル』は、17世紀フランス古典主義演劇の傑作として、その卓越した美しさで高く評価されています。アリストテレスの『詩学』に基づく三一致の法則（時間、場所、 Handlungseinheit）を厳格に守りながら、古代ギリシャの劇作家エウリピデスの『ヒッポリュトス』を翻案した本作は、人間の情念と理性、運命の残酷さを見事に描き出しています。
洗練された詩的な言語
『フェードル』の美しさは、まずその洗練された詩的な言語に表れています。ラシーヌは、フランス語のalexandrin（アレクサンドラン）と呼ばれる12音節詩を駆使し、格調高く、音楽的な響きを持つ台詞を作り上げました。特に、登場人物たちの心の葛藤や苦悩を表現する独白は、その美しさで観客を圧倒します。
心理描写の深さ
古典主義演劇の慣習として、登場人物の心理は主に独白や対話を通して表現されますが、『フェードル』においては、登場人物たちの言葉の裏に隠された感情や葛藤までもが繊細に描写されています。特に、義理の息子ヒッポリトスへの禁断の愛に苦しむフェードルの心の揺れ動きは、ラシーヌの優れた心理描写力によって鮮やかに描き出されています。
悲劇的な運命の力強さ
『フェードル』は、抗うことのできない運命に翻弄される登場人物たちの悲劇を描いた作品でもあります。フェードルの悲劇は、彼女自身の意志の弱さや誤解によって引き起こされた側面もありますが、同時に、彼女が背負わされた宿命的な運命の残酷さを浮き彫りにしています。登場人物たちの悲劇的な結末は、人間の無力さと運命の力強さを観客に印象づけます。